古い価値観から「令和モデル」へ実現のための基盤は「健康」
男性の役割、女性の役割を古い価値観で縛り付けていた「昭和モデル」から、全ての人が希望に応じて家庭でも仕事でも活躍できる社会「令和モデル」への切り替えを――。そう呼びかける国は、今年6月に「令和6年版男女共同参画白書」を公表。特集では「仕事と健康の両立」にクローズアップし、令和モデル実現の基盤となるのは「健康」であると打ち出している。
その理由は日本の現状にある。改めて整理すると、2022年の時点で、平均寿命は女性が87.09歳、男性は81.05歳である。生命表(※)上で死亡する人が最も多い年齢、つまり死亡年齢の「最頻値」という観点から寿命を捉えてみると、女性は93歳、男性は88歳であり、まさに「人生100年時代」を迎えていることが分かる(厚生労働省「令和4年簡易生命表の概況」より)。
※「生命表」ある期間における死亡状況が今後変化しないと仮定したときに、各年齢の者が1年以内に死亡する確率や、平均してあと何年生きられるかという期待値などを、死亡率や平均余命などの指標によって表したもの。
また、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」である健康寿命の延びも目立つ。女性は75.38歳、男性は72.68歳(19年時点、厚生労働省資料より)で、平均寿命を基準にすると女性は約12年、男性は約9年の「健康ではない期間」が生じることになる。このような変化の中では、働く自分自身および家族がいかに健康であるか、またどのように健康課題と上手に付き合っていくかが、ますます重要なポイントとなる。
一方で事業者には、健康維持・増進の積極的な取り組みを通じて従業員のウェルビーイングを高め、生産性の向上につなげ、事業の成長を実現する、そんな工夫が求められる。45年ほど前の就業者のピークは、女性は20代前半、男性は30代前半だった。いまや男女共に40代後半となり、就業者数の男女差も小さくなっている(総務省「国勢調査」より)。育児、介護といった複雑な悩みを多く抱えがちな世代でもあり、加えてライフイベントや仕事、家庭に対する個人の考え方も多様化していることから、画一的ではないきめ細かなヘルスケア対策が不可欠といえる。
抱えている健康課題は男女で違いがある
では、どのような点に目を向けることが大切だろうか。一つは男性が抱えやすい健康課題、女性が抱えやすい健康課題は内容や時期が異なっている、それをしっかりと理解しておくことだ。具体的には次のような違いがある。
例えば前立腺肥大(症)、前立腺がんといった男性特有の病気は、50代以降で多くなる傾向がある。対して女性特有の病気の場合は、働く世代に多く見られるという。月経障害や女性不妊症は20代から40代前半、子宮内膜症や子宮平滑筋腫は30代、40代、乳がんやいわゆる更年期障害、バセドー病などの甲状腺中毒症は40代、50代で増加する(厚生労働省「令和2年患者調査」より)。
また、がんの罹患率(上位5部位:男性は肺、前立腺、胃、大腸、肝及び肝内胆管、女性は大腸、胃、肺、乳房、子宮)は、男性は60代以降で急激に増え、女性の「乳がん」「子宮がん」は30代から増加している(厚生労働省「全国がん登録 罹患数・率報告2020年」より)。
がんを除く傷病別の通院者率(人口千人当たり)からは「かかりやすい疾病」の男女の違いが浮かび上がる。糖尿病、狭心症、心筋梗塞、痛風、脳卒中などは、女性と比較して男性の方が通院者率が高い。反対に女性の方が高いのは、高コレステロール血症などの脂質異常症、骨粗しょう症、肩こり症、関節症などである(厚生労働省「令和4年国民生活基礎調査」より)。
健康課題に関するこれらの情報から読み解けるのは、どのような組織にも「何らかの疾病を抱えながら働いている従業員が一定の割合で存在し得る」という事実である。男女でさまざまな違いはありながらも、通院しながら働いている者の割合は女性40.7%、男性40.6%と同程度に上るとされ(厚生労働省「国民生活基礎調査」より)、しかも年々上昇しているという。職場での健康支援を進める上では、健診の数値が上がったり下がったりといった側面だけにとらわれず、疾病を抱えている人がいるという前提に立って「どうサポートすれば組織としてより良いパフォーマンスを発揮できるのか」「男女の違いや疾病の有無を踏まえていかに互いの理解を深めていくか」を考え、対策を立てることが重要だろう。
自身の健康に対する認識と昇進意欲には関連がある
なぜ企業は従業員の健康に投資する必要があるのか、その問いに答える一つの興味深いデータがある。「自身の健康に対する認識と昇進の意欲には関連がある」というものだ。20代から40代のどの年代においても、男女共に「健康でないと思う」者に比べて「健康だと思う」者の方が現在より上の役職に就きたいとする者の割合が高い。逆にいえば、「健康ではないことが理由で、現在よりも上の役職を目指すことができない」と考えている人がいることがうかがえる。
ただ、気になる症状があっても「十分に対処できている」とする者は「十分に対処できていない」者よりも昇進意欲が高いという調査結果もある(「令和5年度 男女の健康意識に関する調査」令和5年度内閣府委託調査より)。プレゼンティーイズム(健康問題によって生産性が低下している状態)の「年間損失日数」は「令和6年版男女共同参画白書」によると、健康経営に取り組む企業は男性だと4〜6日程度、女性は4〜7日程度「少なくなっている」とまとめられている。この日数には体調不良による休暇、欠勤は含まれない。
最後に、従業員が職場にどんな配慮を望んでいるのか、主なものを紹介する。20〜39歳の女性では「生理休暇を取得しやすい環境の整備」「出産・子育てと仕事の両立支援制度」など、40〜69歳の女性では「病気の治療と仕事の両立支援制度」「更年期障害への支援」「経営陣・トップの理解」などが挙げられている。男性はどちらの年代も「経営陣・トップの理解」「男性上司の理解」が上位となった(「令和5年度 男女の健康意識に関する調査」令和5年度内閣府委託調査より)。フレックスタイム制やテレワークなどを活用した柔軟な働き方、DX(デジタル・トランスフォーメーション)の推進、デジタル機器の導入など、仕組みやツールで解決できる課題も多いだろう。経営層の理解と適切な判断が、従業員の健康を支え企業の未来を変えていく。