中国ではなぜ賃貸マンションが敬遠されるのか
日本では、若者は大学を卒業して就職したら、自宅から通う人は別として、多くの人は賃貸のアパートを借りて住む。日本の賃金体系は今でも年功序列であるため、ある程度年数が経って給料が徐々に上がれば、結婚に向けてマンションを買う人が多い。なかには、結婚してからも賃貸マンションやアパートに住む人も少なくない。
賃貸で家を借りるメリットには気楽さがあるだろう。とくに財産形成を考えないのであれば、気楽に生活したい人にとって賃貸で家を借りるのは決して悪い選択ではない。また、低所得層の人々は家賃の安い公営住宅に申し込むこともできる。日本では、各々の所得層の多様化した需要に応える形で住宅の供給も多様化しているのだ。
中国の低所得者は住む家がなく、一部はスラム街化
それに対して、中国では不動産バブルの崩壊以降も、賃貸に乗り換える人が少なく、公営住宅も整備されていない。低所得層は住む家がなく、大都市の一角がスラム化している。数年前に北京市政府は街の景観をよくするため、「低端人口」(低所得層の人々)を本籍地に強制送還する措置を講じた。当時の北京市長は習政権常務委員の一人である蔡奇だ。
都市部にスラム街が出現すると、治安が悪くなるのは確かだが、だからといって住民を本籍地に強制送還するやり方は、明らかに乱暴すぎるといわざるを得ない。北京市の経済力であれば、日本の公営住宅のような住宅を整備して、抽選で入居者を受け入れることができるはずである。これらの「低端人口」と呼ばれる低所得層の人々は、大体が市内で飲食や宅配などのサービス業に従事していた。彼らが本籍地に強制送還されてから、北京市民の生活に支障が出るようになったと報道されている。
中国の都市部では公営住宅が整備されていないだけでなく、民間の賃貸マーケットも大きく育っていない。賃貸マーケットが育つには、貸すほうと借りるほうがいずれも契約をきちんと守らなければならない。しかし中国では、法律の整備は進んでいるものの、法の執行がきちんと行われていない。契約を一方的に破棄しても罪に問われないため、賃貸契約の文化が根付かないのだ。トラブルになって自分だけが損をすることを恐れ、部屋を貸そうとする人も借りようとする人もなかなか現れない。