日本は約30年ぶりの急激な物価上昇を経験し、2024年には長期にわたるデフレーションからの転換の兆しが見られる。この状況を踏まえ、インフレリスクを意識して、投資先を分散するためにオルタナティブ投資への資金の振り向けを検討する個人投資家が増えている(※1)。オルタナティブ投資はかつて機関投資家が中心だったが、近年小口の投資商品が加わり個人の投資機会が増えたことも人気を集める一因だ。資産運用残高1兆ドル(約142兆円)(※2)超を誇る世界最大級のオルタナティブ投資運用会社のブラックストーンによれば、オルタナティブ投資、中でもPE(プライベート・エクイティ=多くの場合、非上場企業の株式)投資は長期的な資産運用の中核になり得るという。ブラックストーン プライベート・エクイティ グローバル責任者のジョー・バラッタ氏と、ブラックストーン プライベート・エクイティ日本代表の坂本篤彦氏が、グローバルの視点と国内の視点から分かりやすく解説する。

インフレが資産配分戦略を見直す契機に

――ブラックストーンは世界で約230の非上場企業に投資しています。現在の投資環境をどう見ますか。

【バラッタ】ブラックストーンのPE投資先企業の23年10~12月期の売上高成長率は1桁台後半の伸びを見せるなど、一定の底堅さが見られます。とはいえ、全体的な環境は引き続き楽観できず、金利は当面高いままでしょう。一方で、当社は約40年の歴史を通じ、金利の水準に左右されず一貫してお客さまにリターンを提供してきました。成長分野の事業や資産に投資し、長期的な価値向上に向けた事業の変革を重視しており、大きく成功した投資の一部は市場が混乱する局面で実行してきました。当社には規模と柔軟性という強みがあり、世界中で2000億ドル(約28兆円)(※2)を超える資金を投資できます。

ジョー・バラッタ(Joe Baratta)
ブラックストーン
プライベート・ エクイティ
グローバル責任者
1998年ブラックストーン入社、2001年にロンドンに移り、ヨーロッパでのブラックストーンのプライベート・エクイティ投資事業の確立に貢献。12年からプライベート・エクイティ部門グローバル責任者、ニューヨーク在勤。

【坂本】日本でも数十年ぶりに到来したインフレは、多くを現・預金に滞留させている個人投資家が資産配分戦略を見直す契機になっています。日本に先行してインフレが進む欧米では、株式と債券の相関性が高まり、上場市場での分散投資が難しくなる中で、投資家はポートフォリオの分散を図るためプライベート市場への投資の比重を高めています(※1)。その手法の一つがPE投資、有望と思われる非上場企業への投資です。

――たしかに大企業でも非上場のケースは少なくありませんね。例えばIKEAやマッキンゼー・アンド・カンパニー、LEGO、日本ではサントリーホールディングスや竹中工務店、YKKです(※3)

【坂本】PE投資には40年以上の歴史があり、ブラックストーンも約40年前にPE投資会社として創業しています。その後今日に至るまで、PE投資は著しく拡大しました。現在では、事業の変革への支援がこれまで以上に重要になっています。積極的な経営改善と企業価値の向上を通じて長期的な成長を達成することで、最終的に投資先企業の株主や従業員、投資家に利益を還元します。

――上場株投資に比べてPE投資が優れているところはどこでしょうか。

【バラッタ】PE投資は歴史的に上場株式市場を大きく上回るリターンを獲得してきました(※4)。世界中の名だたる機関投資家がPE投資の配分を引き上げており、例えば、カナダ年金制度投資委員会では、23年に総資産の30%超をプライベート・エクイティに投資しました(※5)

【坂本】PEには投資家を引き付ける魅力がありますが、それは以下四つの理由からです。①世界の大型企業の約86%が非上場であり「投資対象が幅広い」こと(※6)。②PEの大手運用者は投資先企業について膨大かつ詳細な情報を持ち、「情報の優位性」を発揮できること。③ブラックストーンのPE部門では、過半数株式を取得し、企業経営に直接関与して「企業価値の向上」を図ることが可能であること。④一般的に、各企業に対して長期にわたり投資を行うので、「売却時機・手法の柔軟な調整」も可能であること。

ブラックストーンだからできること

――バラッタさんが手がけたPE取引の中で象徴的な事例を教えてください。

【バラッタ】私が入社した1998年当時、当社のPE投資拠点は米国だけでしたが、私自身が2001年からロンドンに駐在して欧州事業の拡大に努めました。象徴的な事例といえば、05年にマーリン・エンターテインメンツを買収し、経営陣と共に世界有数のテーマパークと観光施設の運営会社を築き上げたことですね。

ブラックストーンの支援により世界最大級のテーマパーク運営会社となったマーリン・エンターテインメンツが所有するロンドンの観光名所「ロンドン・アイ」(観覧車)。

買収当時のマーリンは30弱のアトラクション施設を運営する小規模な会社でしたが、当社が多額の資金を投じて「レゴランド」やロンドンの巨大観覧車「ロンドン・アイ」、ろう人形館「マダム・タッソー」を傘下に持つタッソー・グループなどを買収し、事業拡大を支援しました。そしてマーリンの上場後は、長年のパートナーで同社の大株主でもあるレゴ創業一族の持ち株会社キルクビと共に、19年に再び同社を非公開化しました。経営強化と長期的な成長には非上場形態が向いているという考えに共鳴したからです。マーリンはブラックストーンによる初回の投資以来、24カ国に140以上の観光施設を展開する世界最大級のテーマパーク運営会社となりました。

この案件は規模、経営に関する専門知識、グローバルネットワークといった当社の持つ総合力を極めてよく表しています。当社は多数に及ぶ投資先企業、豊富な経営支援リソースを活用し、投資先企業がそれぞれの分野で飛躍的に成長できるよう支援いたします(※7)

――日本での投資事例はいかがですか。

坂本篤彦(さかもと・あつひこ)
ブラックストーン
プライベート・エクイティ日本代表
日本でプライベート・エクイティ投資に20年以上携わる。2018年より現職。

【坂本】私は18年よりブラックストーンで、国内企業のPE投資を手がけてきました。ヘルスケア分野での代表的な案件は、アリナミン製薬(旧武田コンシューマーヘルスケア)とあゆみ製薬の買収です。アリナミン製薬の買収は日本のヘルスケア分野における過去最大のPE案件です。同社の代表的な製品であるビタミン剤「アリナミン」は60年以上にわたり、日本の家庭に親しまれてきました。ブラックストーンは武田薬品工業の非中核事業を買収して新会社「アリナミン製薬」を設立し、当社の規模とヘルスケアに関する専門知識を活用して、一段の成長を支援する機会を頂きました。

この案件は私たちPE投資運用会社の支援によって、大企業傘下の非注力事業をカーブアウトし、独立企業としての潜在価値を最大限に引き出すことができた好事例といえるでしょう。新体制の下、国内市場シェアの拡大、通販プラットフォームの確立による直販強化、海外展開の拡大を成長の軸に、当社はアリナミン製薬の経営支援に尽力しています(※7)

――投資家にとって、オルタナティブ投資で注目すべき点はどこでしょうか。

【バラッタ】今はオルタナティブ投資、中でもPE投資が魅力的な時期です。特に大事なのは投資先の選択です。当社には投資規模と、230社に及ぶ膨大な投資先企業のデータへのアクセスという強みがあり、トレンドをいち早く察知することができると考えています。デジタル・エコノミー、エネルギー移行、ライフサイエンス(※8)など、インフレ率やGDPを上回るスピードで成長している分野に注目しています。PEは一貫して上場株式市場を上回って推移しており(※4)、足元の環境でもこれが続くと期待できるでしょう。

注記:全ての情報は、別段の記載がない限り、2023年12月31日現在の情報。表明された見解は、本資料に記載された日付の時点のみにおけるブラックストーンの最新の見解を反映。本資料に記載された見解や意見が実現することを保証するものではない。掲載された情報のうち、特に市場データ、経済およびその他の予測については、外部の情報源から得たものがあり、ブラックストーンは、これらの情報の正確性を保証しない。
※1 分散投資は利益獲得の保証や、損失を回避するものではない。
※2 1ドル141.83円にて換算(2023年12月29日)
※3 上記の非上場企業は、単なる説明のための例として提示。マーリン・エンターテインメンツ、アリナミン製薬およびあゆみ製薬は、ブラックストーンの現在の投資先。将来、ブラックストーンが同様の企業に投資する、または投資がその投資目標を達成する保証はない。
※4 出所:ケンブリッジ・アソシエイツ 2023年3月31日時点
※5 出所:カナダ年金制度投資委員会2023年年次レポート
※6 出所:キャピタルIQ 2023年8月
※7 紹介した事例は、運用の指標・パフォーマンスの両面について、特定の種類の全ての投資あるいは一般的な投資を代表するものではなく、また、ブラックストーン プライベート・エクイティ部門が将来に同等の、または同様に成功する投資を行うと想定すべきではない。ブラックストーンのファンドや投資がその目標を達成したり、著しい損失を回避できる保証はない。
※8 ブラックストーンが上記のテーマに関連する取引を調達もしくは実行できる保証はなく、またブラックストーンのファンド、投資がその目標を達成する、あるいは著しい損失を回避できる保証もない。