労働、治安、環境の悪化

私たちは仕事をポケットに入れた電話を介して家に連れて帰り、夜も週末も時間と関心を費やすことが要求される。賃金は何十年も低迷していて、育児や住宅にかかる費用の増加、学生ローンの支払いはますます厳しくなっている。

学校で銃乱射事件が頻発し、全米の学区で定期的にアクティブシューターに対応する訓練が行なわれているが、ジョージア工科大学の研究者によると、この訓練自体がトラウマになっている。これを実施した子どもたちに、不安、抑うつ、その他の精神状態の悪化による症状が、よく見られるという。

さらに、気象状況も心配だ。ほとんど大きく報道されないが、21年夏には、アメリカやカナダの西部で発生した大規模な山火事がシカゴからニューヨーク、ニューハンプシャー州のホワイトマウンテンまで空を黒くしたし、22年夏には、アラスカのツンドラ火災の煙がフェアバンクスからノームまで広がり、大雨がケンタッキー州やミズーリ州の町を一掃した。

現代生活のプレッシャーや不安や危険に対する考慮が不十分なことを考えると、親にならないという決断は、完全に合理的であると言えなくもない。むしろ、子どもを持つ決断のほうが、もっと説明が必要なのではないだろうか。

「なぜ産まないの?」「なぜ産んだの?」

「自分の選択を正当化することを期待されている。人から『なぜそうしないの?』ときかれるので」と話すのは、カナダ生まれのタトゥーアーティスト、グエン・ダグラスだ。ベルリンにスタジオを持ち、パートナーと茶色い斑点のあるダックスフンド、ルートヴィヒと暮らしていて、副業で児童書の挿絵を描いている。ダグラスは、イギリスの写真家ゾーイ・ノーブルが編纂した、子どものいない女性のポートレートとライフストーリーのシリーズ『私たちはチャイルドフリーです』で紹介された40人の女性のひとりだ。

「なぜ、もうひとつの質問をしないのでしょう?」とダグラスは話を続けた。「『なぜ、子どもを産むことを選んだのですか?』と。それこそ大きな疑問です。あなたには、それに見合うだけのリソースと感情的な能力がありますか? それとも、そうするべきだと思ったから、ただ闇雲に産むのですか? 友人を見ていると、『次にやるべきこと』のリストに入っているから、という理由で、多くの女性が子どもを産んでいます。世界は人口過剰です。気候の危機もあります。『私は子どもがいりません』と言う人がいれば、『あ、そう』と受け流すべきではないでしょうか」

ストレスのたまった人
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「核家族」が唯一のモデルになっている

しかし、私たちが受け流すのに苦労するのは、核家族というものが、唯一の可能なモデルとして、私たちに提供されているからだ。結婚した母親と父親、外部の支援がほとんどなく両親に育てられる血のつながった子ども、である。