LOH(ロー)症候群──。男なら、いつか発症するかもしれない病気だ。LOHとは「加齢男性性腺機能低下」を意味し、ED(勃起障害)が現れることもある。この病気の詳細やED治療について、金沢大学大学院医学系研究科泌尿器科学教授の並木幹夫先生に聞いた。

ED疾患を語る──
並木幹夫●なみき・みきお
金沢大学大学院医学系研究科 泌尿器科学教授
大阪大学医学部卒業、同大学医学部助教授などを経て1995年より現職。日本アンドロロジー学会理事長、日本性機能学会副理事長、日本Men's Health医学会理事などを務める。「LOH症候群診療の手引き」の作成委員長を務めた。

カラダ全体の健康維持に
男性ホルモンは欠かせない

──「LOH症候群」とは、いったいどんな病気なのでしょうか。

並木 加齢に伴う男性ホルモン減少により、おおむね40歳以上で現れる多様な病態を指します(図1)。症状として、ED(勃起障害)も含まれます。

勃起のためには、性欲を覚える脳、その信号を伝える神経系、そして陰茎の血管などが正常に機能せねばならず、それらすべての過程で男性ホルモンは大事な役割を担います。そこにLOH症候群がEDを招く理由もあるわけです。

──いわゆる「男性更年期障害」のことを指すのでしょうか。

並木 必ずしも「男性更年期障害=LOH症候群」ではありません(図2)。

一般的に男性更年期障害には3大症状があります。イライラや不眠、抑うつ感などの精神症状。体力・筋力低下、ほてりなどの身体症状。これらは女性の更年期障害に似ていますが、男性の場合、さらにEDなどの男性性機能障害も加わってきます。こうした症状をもつ患者さんが検査を受け、男性ホルモンの減少が著しければ、LOH症候群と診断されます。しかし検査してみると、ホルモンにはさほど異常がない人もいます。例えば、ストレスなどが要因で抑うつ感やだるさなど、更年期症状を自覚することもあるのです。そういったケースはLOH症候群から除外されます。

そもそも男性には、女性の閉経後にホルモンのバランスが急激に変化するような、明確な更年期はありません。ふつう男性ホルモンは、ゆるやかに減っていくからです。したがって、症状はずっと出ないままかもしれないし、出るとしても年齢幅が40歳ごろから70代以上までと、非常に広いのも特徴です。

──男性ホルモンは、性機能以外にも必要な物質なのでしょうか。

並木 男性ホルモンは、カラダ全体の健康をトータルにつかさどる、大切な役目を果たしています。例えば、その減少によって糖や脂肪の代謝に異常をきたし、自覚症状はなくても高血糖や脂質異常など、メタボリックシンドロームが助長されることもあります。また筋力とともに骨密度が低下し、転倒・骨折をまねきやすくなる。介護施設では「要介護度が高い男性ほど男性ホルモンが減少していた」との調査結果も出ています。

しかも男性ホルモンが少ない人は、寿命が短くなる傾向もあります。1つには、メタボから糖尿病、高血圧症、動脈硬化などへ進むと、心筋梗塞や脳卒中などのリスクが高まるためです。

このように男性ホルモンは、男性の健康維持において、とても重要なカギを握っているのです。