がんは患者本人の心身の不調に止まらず、罹患後の就労や経済問題など多岐にわたる課題につながっている。解決のためには、社会の様々なステークホルダーと協力しつつ、がんに関わる課題解決を目指す「キャンサーエコシステム」の構築が必要だ。先駆者であるアフラック生命保険は、日立製作所などとともに、日立グループの職域を対象にしたキャンサーエコシステムづくりに取り組んでいる。アフラック生命保険の宇都出公也・取締役上席常務執行役員(エグゼクティブ・メディカル・オフィサー)が、ともにプロジェクトを進める日立製作所、日立グループの世界的なIT企業であるGlobalLogic Japanのメンバーと語り合った。

エコシステムの中で、なぜ「職場」が重要なのか

【宇都出】弊社では年間61万件もの「がん保険」のご請求を頂戴しています。そのお声から感じていることは、がんに関わる問題は、身体的問題や心理的・精神的な問題、さらには、就労や経済面を含めた社会的な問題など多岐にわたり、その解決には社会全体で対応しなければならないということです。私たちは、職場や学校、患者団体やNPO、企業、さらには行政機関などの様々なステークホルダーが連携・協業し、がんに関する社会的課題を包括的に解決するための仕組みとして「キャンサーエコシステム」の構築に向けて取り組んでいます。

中でも、働いている人々にとって職場の役割は極めて重要です。仕事は経済的な意味以上に、生きがいや社会とのつながりとして捉えている方も多く、仕事を続けること自体が生きる力そのものにもなります。また、がんの啓発や予防の視点でも、職場全体で知識の普及や検診受診率向上に取り組むことができます。これらに鑑みると、職場はがん予防・啓発から罹患りかん後のサポートまで、「キャンサーエコシステム」における大きな役割を担っているのです。今回、「職域の従業員を当事者としたキャンサーエコシステム」の具現化に向けて、社会全体のインフラを支える日本を代表する企業でもある日立グループと協創できることは、我々にとって大きな意味を持っています。

社会全体の課題解決に、パートナーとして貢献したい

【内藤】日立グループでは全社をあげて社会全体の課題を解決し、社会イノベーションを実現するという企業スローガンを掲げています。アフラックの「キャンサーエコシステム」は、がんという病気に関わるすべての人々の生活の質を上げ、よりよく生きていく取り組みです。これは、社会全体で解決すべき課題であり、私たちも協創パートナーとして関わりたいと思いました。グループの総合力を活かして課題に向き合い、日立はプロジェクトの全体のコーディネートを担い、GlobalLogicは、デジタルソリューションによりサービスの具体化のお手伝いを通じてともに貢献したいと思っています。

内藤 昌浩(ないとう・まさひろ)
株式会社日立製作所
金融システム営業統括本部
営業統括本部長

【後藤】我々は米国シリコンバレーで誕生したIT企業です。2021年から、日立グループの一員として、グローバルに培ってきたデザイン思考やデジタルエンジニアリング力をもって、社会に安心・安全を届けることをより具体的に導くパートを担っています。世の中が多様に変化していく中で、その変化に対応するというのが重要なポイントなので、追随できるような進め方とテクノロジーで役立ちたいと考えています。

宇都出 公也(うつで・ともや)
アフラック生命保険株式会社
取締役上席常務執行役員、エグゼクティブ・メディカル・オフィサー

【宇都出】日立製作所の多様なコーディネーション、GlobalLogicの時代に応じた技術や思考、そして弊社の社会全体で連携協働が必要であるという考え方の根本には、ソーシャルイノベーションを実現するという共通意識があり、非常に理想的な形で進められているのではないでしょうか。

現状の課題を整理し可視化することが第一歩

【内藤】各社から参加しているメンバーがワークショップへ積極的に参加しているのを見て、とても理想的な検討の仕方だと感じています。日立グループでは健康医療に関わるプラットフォームは揃っており、従業員の定期健康診断の受診率も、ほぼ100%です。しかし、「いざ」というときに自分で必要な情報を探しにいけるプラットフォームになっていません。また、従業員の家族の検診受診率を上げるためにはどうするべきか? という意見も上がりました。こういった当事者意識は、課題に向き合うために最も重要なことだと感じています。

【後藤】罹患する前と後それぞれにサポートはあるものの、点在して見えているという課題はワークショップでも浮き彫りになりましたね。準備段階ではまず、がんに罹患された当事者の方々の生の声を収集・分類して、複数のペルソナを作成し、がん罹患前から罹患後までの時間軸においてその方々が辿った道のりを整理したジャーニーマップを作成、課題を可視化しました。ワークショップでは、ジャーニーマップをベースに、アフラックでより多くの当事者に向き合っている現場の方や、企業の意思決定者にも課題解決に向けたアイディアを出してもらうという作業をしました。その後、アイディアを様々な角度から分析、評価、カテゴリー分けをして、実現性なども踏まえながら優先順位付けを実施していきました。

【宇都出】日立グループは日本だけでも10万人以上の方が勤務しています。そういうところで今回のようなプロセスを経て、当事者を支える仕組みづくりができれば、おそらく他の企業でも活用できますし、さらに自治体などでも応用できるかもしれません。今回の取り組みが拡大、活用、展開されることで、がんになっても動揺せず、前向きに生きられる社会が実現したら良いと思っています。

職場に止まらず、様々なフィールドでの応用を視野に

【内藤】日本の社会に出ている課題が、グループ内に凝縮されているかもしれないと私自身も感じています。だからこそ、今回の取り組みが社会の役に立つ取り組みであり、我々だからこそ挑戦すべきことだとも感じています。一方で、社会の変化のスピードが加速していることで、課題の形は刻一刻と変わります。それに向き合うためには、現場に根差した問題意識が不可欠です。常にその当事者意識を持ちながら、社会問題の解決に挑む集団でありたいと思っています。

【後藤】変化が激しく、答えが一つではない、という今回のような大きな課題に取り組む場合は、協創の力がとても大きく働くのだと、今回の取り組みで気付かされています。そして、このような進め方が、今、とても必要とされているのだとも感じました。多様化が進む社会で必要とされる答えを導くためには、部門や分野、さらには企業を超えた行動や進め方が重要になるということを、今回の取り組みを通して社内外へ発信していきたいです。

後藤 恵美(ごとう・えみ)
GlobalLogic Japan株式会社
Strategy & Delivery Head

【宇都出】おっしゃる通り、社会全体にこの取り組みを知っていただきたいですね。がんは今や二人に一人がかかるとも言われ、長生きをすればいずれその可能性はありますし、お子さんが小児がんになるというケースもあるかもしれません。思いもよらないことが起きたときを想定して、職場、地域、学校など具体的なフィールドでそれぞれに合った対応ができるように準備が必要です。今回、こうして手触り感のある具体的な取り組みを日立グループと行えたことで、今後の応用や活用につなげていき、職場に止まらない「キャンサーエコシステム」を構築していきたいと考えています。