乳がん・骨粗しょう症…女性だけでなく男性にもリスク
ここまで女性側の病気を中心に解説してきましたが、性差医療は男性・女性の両面を捉えることが重要になります。例えば、女性の病気というイメージのある乳がんや骨粗しょう症は男性にも起こりますし、女性に多い甲状腺疾患は男性が罹患したときには見つかりにくい可能性も。
また、性差に加えて「ライフステージ」の考慮も必須となります。女性は50歳前後に閉経を迎え、これまで受けていた女性ホルモンの恩恵が減っていきます。そのため閉経前の女性と閉経後の女性の健康対策は、分けて考えなくてはいけません。
このように年代別、ライフステージ別の視点を含めた性差医療が必要とされる中で、医療現場の課題となっているのがヒューマンリソースです。重大な疾患なのか更年期症状なのかを一般診療の短い時間で見分けるのは、性差医療を学んできた医師でも困難を極めます。
そのため現在、診療データをデータベース化して患者さんや医師に役立つ、性差医療アプリの開発やその実用化に取り組んでいます。日本性差医学・医療学会では、全国すべての職種の医療者が性差医学を学べ、さらにその認定資格を取れるような取り組みを進めています。日本で性差医療の概念が紹介されてから25年になりますが、どの診療科でも性差とライフステージを考慮する性差医学・医療は、一人ひとりに最適な医療を提供するための最初の一歩なのです。
構成=釼持陽子
医学博士。内分泌代謝科(内科)専門医・指導医、女性ヘルスケア専門医・指導医、糖尿病専門医等。私立 女子学院中学・高校卒後、信州大学医学部卒、同大学院修了、同大附属病院内分泌内科入局。ハーバード大学医学部フェロー(マサチューセッツ総合病院、ジョスリン糖尿病センター)を経て、2007年より東京女子医科大学准教授(東医療センター性差医療部/内科、本院総合診療科/女性科)。20年より、現職。2019-21年度 日本医療研究開発機構AMED受託研究開発代表として、女性診療を支援する「AI診断支援ナビゲーションシステム:WaiSE(ワイズ)」を開発。2021年-日本甲状腺学会理事、2022年-日本性差医学・医療学会副理事長。23年度 経済産業省フェムテック等サポートサービス実証事業(採択事業代表)。