内閣の取り組みに異議を唱えた宮内庁長官発言
去る11月22日、宮内庁の西村泰彦長官は定例記者会見で、皇位継承問題をめぐりいささか思い切った発言をおこなった。
それは以下のような内容だ。
「現時点の皇室全体を見渡すと、安定的な皇位継承という観点からは課題がある。皇族数の減少は皇室活動との関連で課題がある」(共同通信、同日18時37分配信)
一見、とくに注目する必要もない当たり前の発言のように受け取れるかもしれない。あるいは、何をいおうとしているのか、すぐにはピンとこない人がいるかもしれない。
しかし、これは岸田文雄内閣の皇位継承問題への取り組み方に対して、真正面から異議を唱えたに等しい。
発言に隠されたメッセージ
まずタイミングに注目しよう。
この発言の直前の同月17日。自民党の総裁直属機関である「安定的な皇位継承の確保に関する懇談会」(麻生太郎会長)の初会合が開かれた。
そこでは、皇位継承の将来が不透明になっている現実や、皇室が直面している「安定的な皇位継承」という課題をひとまず横に置いて、“目先だけ”の「皇族数の確保策」を検討する方向性が示された。先に、政府から国会に検討を委ねられた有識者会議の報告書をベースに、議論を進めるという姿勢だ。
これは、この懇談会が岸田自民党総裁の直属機関と位置づけられ、さらに会の実務に当たる事務局長を岸田氏の側近中の側近とされる木原誠二・幹事長代理(今、別の問題で注目を集めている)が務めていることから、岸田政権が目指す方向性そのものと見ることができる。
しかし懇談会がベースにしようとしている報告書には、「安定的な皇位継承」という本筋かつ喫緊の課題は“先延ばし”することが書かれていた。さしあたり、「皇族数の確保」だけでお茶を濁すという内容だった。
これでは、「“安定的な皇位継承の確保”に関する懇談会」という名前に照らして、“看板に偽りあり”だ。
ここまで説明すると、西村長官の発言の意図は明らかだろう。この懇談会の方向性に疑問を投げかけたものだ。
「大切なのは、単なる数合わせのような皇族数の確保ではなく、将来に向けた安定的な皇位継承の確保だ」というメッセージにほかならない。