母の財産をめぐりきょうだい3人の勝手な言い分
若い頃から化粧品業界で働き、ひとりで販売会社を起こした母親はまもなく80歳になる。事業で築いた資産は数億円に上り、そろそろ相続税対策をしなければと考えるようになった。浮気した夫には自分が稼いだお金を1円も渡したくないときっぱり離婚していたので、財産は3人の子どもたちに均等に分けたいと思っていた。
「私が死んでしまったら、大きな税金を国に持っていかれるのは嫌だもの。どうしたらいいのかしらねえ」
あるとき母から電話があって、相続の相談をされたのは長女のY子さん(46歳)だった。母親が保有している資産は現預金のほかに、東京都内の自宅と熱海で買ったマンションといった不動産、株や債券、投資信託など。勧められるままに複数の生命保険にも加入していた。それでも本人は、運用資産がいくらになっているか、どんな生命保険に入っているのかもわからないという。全部ばらばらに管理されているので、その整理から始めなくてはならない。誰に何をどうやって分配すればいいのか、相続税対策はどのようにしたらいいのかと、Y子さんは気が重くなった。
専業主婦のY子さんは、神奈川県在住で夫と二人暮らし。メーカー勤務の兄(51歳)は、名古屋へ赴任して家庭を持ち、大学生と高校生の子どもたちがいる。都内の実家には独身で銀行に勤める妹(42歳)がいて、母親の身の周りの世話をしながら同居している。
地方に住む兄が帰省するのは年2回ほど。次女も仕事や趣味が忙しそうなので、3人で会って、ゆっくり話し合うのは難しそうだ。Y子さんは悩んだ末、とりあえずファイナンシャル・プランナーに相談してみようと考えた。
「世間ではよく親が亡くなった途端、きょうだいが骨肉の争いになるとは聞いていました。でも、私たちは仲が良いから大丈夫だろうって。実は甘い考えでしたけど……」
Y子さんから相談を受けたのは、「母親の資産があるので相続税対策をしたい」ということでした。そこで私は最初に「他の相続人の方たちの中で意思の疎通はとれていますか?」と確認しました。すると、「これからです」という返事だったので、「まずは3人でよく話をしてください」と伝えると、「いえ、私たちはきょうだい仲がすごく良いので、もめることはないと思います」と言われたのです。
とはいえ相続税対策を進めるために肝心なのは、家族間での話し合いです。しかも本来であれば、財産を贈与する親も交えてしっかり話し合うことが重要なのです。親にしてみたら、自分の知らないところで子どもたちが勝手に話し合っているのは面白くないもの。当然ながら親の意思を一番大事にするのが基本なので、Y子さんには「お母さんも含めて、ちゃんと話し合いをしてください」と伝えました。
実際に話し合いをすると、この家庭もきょうだいの間でずいぶんもめたのです。次女としては、「お母さんの面倒をずっと見ているのだから、私がより多くもらうのは当たり前」と言い張り、なかなか一筋縄ではいかない。一方、長男のお兄さんは「会社を辞めて事業を起こすから、先にまとまったお金をもらいたい」とうまく取り入って、お母さんも「お兄ちゃんがそう言うのなら」と信用してしまう。さらに「うちの息子たちも母さんの孫なんだから、相続人にしたらどう?」などと言い出し、子どものいない長女と次女は「何を言ってるの!」と猛反対。とにかく、きょうだいでもめにもめました。
結果的には、お母さんに意思確認をしたところ、「財産は3人に均等に分けたい」とのこと。不動産を含め資産状況がどうなっているかを全部整理したうえで、誰にどの財産を分配するかを決めたのです。相続税対策としては、年間110万円まで非課税になる生前贈与をするということで、最終的には丸く収まりました。