40歳の焦燥は、男女平等

こんな感じで40代前半まで妊娠・出産が可能になれば、結婚は35~40歳でも大丈夫、という心の余裕が生まれます。私はこの5~10年がことのほか大きいと考えています。

修学年齢が昭和戦前は14歳、戦後からしばらくは15歳、高度成長期でも18歳、バブル期でさえ20歳だったものが、現在は22歳に後ろ倒しになっています。それだけ社会に出るのが遅くなり、その上、仕事も高度化している中で、若年時に結婚・出産をするのは、難しくなっているからです。30歳で結婚するのと、37~38歳で結婚するのでは、修学後のモラトリアムは2倍にもなるでしょう。

そうした「余裕の拡張」だけでなく、もう一つ、良いことがあります。

実は男性にも結婚を急がせる事情があります。それは、「定年退職」。現在は定年後の雇用延長が可能ですが、それも義務化されているのは65歳までです。ここから逆算すると、子どもを大学まで出させるには、40代前半がタイムリミットとなります。だから、40歳前後の男性はことのほか、婚活に力を入れていたりします。

ハートマーク型のカードを交換する男女
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです

妊娠・出産という生物的な制約がない男性は、30歳時点では気ままなものです。だから、付き合っているカップルでも、男女で結婚への意識差が大きく、それが破談の遠因になることも少なくありません。

ところが、40歳となると、それが逆転していたりします。上記のような「定年見合い」で男性は結婚に急ぎ、一方女性は、既に出産を諦めつつあることと、順調なキャリアステップの中で、別に結婚しなくてもよいという気持ちが高まるからです。そこから、女性には「おひとりさま」というコースが生まれますが、独身男には絶望と諦観が残るばかりです。

現状でいえば、男女の初婚年齢には2歳程度の差があるので、40歳前後の男性の相手となる女性は37、8歳くらいでしょう。こうした状況で、「女性有利」に相手選びが進められることになる。だからこそ、先ほど書いた「5~10年」の余裕は重要なのです。

「女性は2度おいしい」を常識に

もちろん、何度も言いますが、私は若い時の結婚・出産を否定などは全く致しません。確率的に言えば、やはり若い時のほうが子どもは産みやすく、だから、大いに若年結婚・出産もすべきと思います。ただ、それがかなわなかったとき、女性には焦りとあきらめしか残らないという人生はやめにして、その先に、「女性有利な状況」で相手選びができる年代があると、そんなライフコースを考えているのです。

30代後半にもなれば、キャリアも見えてくるでしょう。有能な人は昇進・ステップアップし、そうでない人は「自分はそこそこ」と気づく。それが分かる年代で伴侶を決めるという「二つ目の適齢期」が是非とも次の常識となってほしいと考えています。

(女性を結局はもの扱いするようであまり書きたくはないのですが)少子化対策を担当する行政の人にも以下、考えてほしいところです。

もし、大正・戦前期並みに40代出生率が戻れば、それだけで、今の少子化問題は解決します。早婚奨励だけでなく、「仕事も家庭も子どもも全てを手に入れられる」30代後半の2度目のチャンスも、ぜひ、政策の視野に入れてほしいところです。

海老原 嗣生(えびはら・つぐお)
雇用ジャーナリスト

1964年生まれ。大手メーカーを経て、リクルート人材センター(現リクルートエージェント)入社。広告制作、新規事業企画、人事制度設計などに携わった後、リクルートワークス研究所へ出向、「Works」編集長に。専門は、人材マネジメント、経営マネジメント論など。2008年に、HRコンサルティング会社、ニッチモを立ち上げ、 代表取締役に就任。リクルートエージェント社フェローとして、同社発行の人事・経営誌「HRmics」の編集長を務める。週刊「モーニング」(講談社)に連載され、ドラマ化もされた(テレビ朝日系)漫画、『エンゼルバンク』の“カリスマ転職代理人、海老沢康生”のモデル。ヒューマネージ顧問。著書に『雇用の常識「本当に見えるウソ」』、『面接の10分前、1日前、1週間前にやるべきこと』(ともにプレジデント社)、『学歴の耐えられない軽さ』『課長になったらクビにはならない』(ともに朝日新聞出版)、『「若者はかわいそう」論のウソ』(扶桑社新書)などがある。