すでに5年が経過した「企業立地促進法」については、
効果をどのように評価できますか?

まず、都道府県の対応を見ますと、そのすべてが同法に基づく「基本計画」を作成しました。また「基本計画」の実施年限は5年となっていますが、今年ちょうど5年目に入った自治体は、一例だけを除いてみんな次の新規計画を立案しています。つまり「企業立地促進法」は、自治体によって前向きに活用されているということです。もちろん、それは企業にも好評だからこそ。優遇税制のほか、特に中小企業には政府系金融機関の低利融資も評判がいいと聞いています。

同法による支援の対象が製造業だけに限定されていないのも、企業側にとってメリットとなっています。ある観光資源をもつ地域の例では、ホテル・旅館向けのリネンサプライを行う企業が、タオルやシーツなどを洗濯したり配送したりする拠点を立地し、支援措置を受けたケースもあります。

さらに、都道府県が「基本計画」を主導することで、市町村の誘致競争がヒートアップする状況は変わり始めています。近隣市町村で誘致の協議会をつくるなど、連携を図る傾向も出てきました。

誘致する側にも
変化が生じているというわけですね

市町村単位での誘致活動が行われなくなったわけではありませんが、立地候補の企業が他県へ行ってしまうよりは隣りの市に来てくれたほうがずっとベターだ、という発想です。それでも雇用効果をはじめ、経済的な波及効果は十分に期待できるのですから。

もう1つ変化を挙げますと、自治体が「誘致活動」に加え、「留置活動」の重要性を認識するようになりました。せっかく誘致した企業の移転を防ぐためには、優遇制度ばかりでなく、地域として企業を応援する気運も必要です。例えば、企業は地元の優秀な人材を確保したい。むろん企業自身の努力は欠かせませんが、自治体が中心となってその企業のことを地域住民の間に浸透させるよう、アシストする行動も望まれるところです。

立地先を選ぶ企業が
重視すべきポイントを聞かせてください

それはどの企業も十分に研究なさっていることでしょう。ただ、先ほど触れた内陸志向は地震対策ですが、自然災害は台風、豪雨、竜巻なども含め、あらかじめ読み切れるものではありません。そして、電力・ガスや道路などのインフラの復旧が遅れるほど、企業活動はより深刻な影響を被る。そこで着目すべきものの1つは、災害に対し自治体が準備しているBCP(事業継続計画)の充実度ではないでしょうか。

この点を考えますと、昨年はタイでも大きな洪水被害が生じており、海外立地のリスクは政情不安だけとは限らないのが現実です。さらに、海外では立地段階の優遇条件がどれだけ魅力的でも、中長期の展望に熟慮が必要でしょう。国によってはいろいろな法制度が未整備なため、操業開始後にトラブルが起こるリスクもあるからです。また日本に見られるような地域の産業集積が未発達で、思いがけない原材料調達の不便に悩むケースなども見られます。あるメーカーは、製品の梱包・緩衝材がほしかったのに現地では要求どおりの品質のものが見つからず、やむなく日本から取り寄せることにしたそうです。

一方、日本では国も自治体も地域経済を支えていくため、国内立地を促す動きをいっそう活発化させています。「用地さえ購入してもらえればいい」というのは、昔の話。地域という「器」の全体を企業に使ってもらい、価値が生み出されるよう努めています。各企業の未来を築く基盤として最も有望な場所を選んでいただければと思います。