国内総DX化の加速で、ハイエンド人材の有効求人倍率は10倍とも
――まず、人材ビジネス市場全般ならびに御社の現況について教えてください。
市場全般についてですが、コロナ禍の影響を強く受けた2020年~21年の前半にかけては、成長の鈍化が避けられませんでした。しかし、21年の後半に入ると経済活動が立ち直り始めたこともあって、人材ビジネス全体の成長に明るい兆しが見えるようになり、現在に至っているという状況です。
そうしたなか、政府の後押しによる国内総DX化の加速によって、さまざまな領域におけるプロジェクトの推進を担う人材への需要が高まる一方です。当社では「DX」「ハイエンド」「コンサルティング」に特化した人材の紹介やシェアリングを行っていますが、一部では当該領域の有効求人倍率は7倍~10倍ともいわれており、極端な例ですが10社から求人があっても、9社からのご要望には応えられないということになります。
――「人が活きる、人を活かす。~人的資本の最大化・最適化・再配置~」をミッションに掲げる御社にとって、成長の源泉とは何なのでしょうか。
02年4月に当社を設立する前、国内系エグゼクティブサーチ会社でヘッドハンティングの業務を行っていた私が着目していたのが、コンサルティングの領域でした。00年の頃から大企業を中心にERP(Enterprise Resources Planning、企業資源計画)システムの導入や業務プロセス改善の導入が相次いで、コンサルタントに対する需要が急速に伸びていました。そこでコンサルティングファームに注力して人材紹介事業をスタートしたのです。現在では、大手コンサルティングファームで働いている現役コンサルタントの4人に1人が当社にご登録いただく規模にまで成長しています。
その一方で1962年創業のハイクラス・エグゼクティブを専門とした転職エージェントであるケンブリッジ・リサーチ研究所を、2016年にM&Aによりグループ化しました。企業が抱えているさまざまな課題を解決し、新しい価値を創造できるコンサルタントなどの人材を「ハイエンド人材」と位置づけていますが、この結果、アクシスコンサルティングと合わせて約8万人ものハイエンド人材である登録者を数えるようになりました。あらゆる分野における正社員の採用ニーズに応えられることが、大きな強みになっています。
ハイエンド人材を雇いたい、でも固定費は下げたい…、経営者の悩みに応える新事業スタート
――同業他社と比較した際、御社にはどのような特長があるのでしょうか。
エグゼクティブサーチ会社に勤めていた際、常に感じていた疑問がありました。それは「人材紹介会社はなぜアフターフォローをしないのか」ということでした。自動車、家電、住宅をはじめ、ほとんどの業界において、顧客に対するアフターフォローは常識になっています。しかし、当時は人材紹介業界に限っては、求人と求職者がマッチングしたら関係が終了していました。
そこで当社では設立当初から、ご登録者の関心に合わせ継続的な情報提供やコミュニケーションを行う仕組みを導入しました。ハイエンドな方が多いこともあり、転職のご支援をさせていただいた方と継続的にコミュニケーションを取っていくと、やがて組織や事業の責任者となられて人材の採用や活用のご相談をいただくケースも多くあります。キャリアパートナーがビジネスパートナーに変化していくケースです。当社のように、組織的にライフタイムバリュー(生涯価値)向上を追求している企業は、同業にはほとんど見当たりません。
――そうしたなか、新しい事業領域の創造にも積極的に取り組まれていらっしゃいますね。
世の中の動きが激しくなり、臨機応変に対応していくにあたって、「できるだけ固定費の比率を下げたい」というのが、経営トップの皆さまの偽らざる心情だと思います。そこで16年に立ち上げたのがスキルシェア事業の「フリーコンサルBiz」で、企業のニーズに合わせたフリーランスのコンサルタントによる課題解決プロジェクトを提供しています。
経営や事業の課題が解決すればプロジェクトは終了しますので、ハイエンド人材のスキル・経験を変動費で活用できます。現在フリーコンサルBizにはフリーランスのコンサルタントが約2000人登録しています。特に経営戦略やDX分野での案件を中心に、プロジェクトのご相談が増えています。
また、22年7月からはスキルシェアの新事業として「コンパスシェア」をスタートしました。直面している経営や事業の課題解決に向けた相談を、コンサルティングファームの現役コンサルタントをはじめとしたハイエンド人材に、1時間単位で行えるスポット型のコンサルティングサービスです。あらゆる経営や事業の課題に対する相談が1時間当たり3万5000円(税別)~という利用しやすい料金で行えるということもあいまって、順調なスタートを切りました。初年度の法人・人材の登録数は目標を達成する見込みです。
「全事業会社でハイエンド人材をシェア」で日本はまだまだ成長できる
――人材紹介とスキルシェアという2つの事業があり、前者ではコンサルティングファーム向けの人材紹介と事業会社向けの人材紹介、後者ではフリーコンサルBizとスポットコンサルのコンパスシェアという全部で4つのビジネスプラットフォームを整備されました。それらを循環させることで、付加価値をさらに高めることができますね。
それが当社における「リカーリングビジネス」です。たとえば、DXの推進で課題を抱えている企業が、フリーコンサルBizを活用して、その課題を解決したとします。DXの課題を解決するなかで今後デジタルに関する責任者を採用すべきという結論に至れば、CIO(情報統括役員、最高情報責任者)やCDO(最高デジタル責任者)などのハイエンド人材の正社員採用を支援することも可能です。
各サービスを継続的に活用していただくなかで、新たな課題が出てきたら他のサービスに転換していく――。それが当社におけるリカーリングビジネスの仕組みですが、先ほどご紹介したとおり、求職を行っていた登録者が転職後に発注者に変わる可能性がある点も、とてもユニークな特徴の一つです。たとえば、先ほどのCIOとして採用された元登録者が、課題の内容によってフリーコンサルBizやコンパスシェアを活用したり、必要とするハイエンド人材の正社員採用の仲介をオーダーしたりすることもあるのです。
――これからニーズが高まるであろうハイエンド人材は、具体的にどのような人たちなのでしょうか。
少子高齢化やグローバル化、そしてコロナ禍を機に急激に加速したDXへの対応など、経営を取り巻くマクロ環境が大きく変化するなかで、経営課題はますます複雑化し、山積み状態となっています。そして、それらの経営課題に対処できるハイエンド人材が決定的に不足しています。「CxO(最高○○責任者)」でいえば、先ほどのCIO、CDOのほかに「CTO(最高技術責任者)」「CMO(最高マーケティング責任者)」「CHRO(最高人事責任者)」といったポストの候補者となる、専門的知識や経験を有するハイエンド人材へのニーズがますます高まっていくでしょう。
実は、そうした事情は大企業だけでなく、中堅・中小企業も同じなのです。しかし、そのようなハイエンド人材を雇い入れるとなると「報酬が高いのではないか」「自社で活用できる人材なのか」といった不安がつきまとい、二の足を踏んでしまうケースが多いのが現状です。そこで用意したのがコンパスシェアであり、自社が抱える真の課題整理や、どのように実行したらよいかというような具体的なアドバイスまで、リーズナブルな料金で気軽に相談できます。
――コンパスシェアにはかなりのポテンシャルが感じられます。
まさにこのコンパスシェアを起爆剤として、国内に約350万社ある全ての事業会社で、ハイエンド人材をシェアしていけるよう力を注いでいるところなのです。そうすることによって、「人が活きる、人を活かす。~人的資本の最大化・最適化・再配置~」というミッションを、さらに高いレベルで実現し、社会全体の課題解決やイノベーションの創出に道筋をつけたいと考えています。
本年3月28日に当社は東証グロース市場への上場を果たしました。より多くの方々に当社のことを知っていただき、そして信頼していただくことで、そうした動きに弾みをつけていきたいと考えます。上場を機に、コンパスシェアの事業を確実に軌道に乗せていくとともに、現在、大手コンサルティングファームに所属する現役コンサルタントの4人に1人がご登録いただいていますが、さらに登録者数を伸ばしていきたいと思っています。ハイエンド人材の層を増やし、その人的資本を幅広くシェアリングしていくことで、日本経済のさらなる成長に貢献していくことが、当社のミッションでもあるのです。