もはや「前線」と「銃後」の区別はなくなった

1991年にソビエト連邦からロシア連邦に変わって以来、ロシアが領土的野心によって一国の首都に大規模侵攻を試みた初めての戦争なのである。様相が変わったというより、はっきりわかってしまったことは、現代の戦争では、侵攻を受ける側になった場合、前線と「銃後」といった関係性はなくなってしまうことだ。戦車に蹂躙じゅうりんされたり、市街戦の現場になることを免れた場合でも、前線の後方にある都市も最初から戦争に巻き込まれてしまうことを、今回の取材で改めて痛感した。

ロシア軍の戦費は1日に2~3兆円かかっているという。世界11位のロシアのGDPが約172兆円だから、1日3兆円とすれば2カ月で年間のGDPを上回ってしまう。追加の兵員の募集も随時行われており、戦争継続のための費用はまだまだ上がり続けるだろう。

この戦費をいつまで維持できるのか。しかしプーチン大統領は強気を崩さず、まったく終結の目途は立っていない。

佐藤 和孝(さとう・かずたか)
ジャーナリスト

1956年北海道帯広市生まれ。横浜育ち。ジャパンプレス主宰。山本美香記念財団代表理事。24歳よりアフガニスタン紛争の取材を開始。その後、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争、アメリカ同時多発テロ、イラク戦争などの取材を続け、2003年にはボーン・上田記念国際記者特別賞を受賞。著書に『アフガニスタンの悲劇』(角川書店)、『戦場でメシを食う』(新潮新書)、『戦場を歩いてきた』(ポプラ新書)、『タリバンの眼』(PHP新書)など。