“本気”が伝わらなければ貴重な食材は手に入らない
国分グループ本社による商品開発は、一般的な食品会社の商品開発とは異なる部分がある。それは、“売れること”が最大の目標ではないという点だ。
「なぜなら私たちは、卸売業を基本とする会社。お取引先である食品会社と似た商品を作ってシェアを奪い合っても意味がありません。当社に求められているのは、新たな売り場や販路を見いだし、お客さまに喜んでいただく、そうした商品の開発なのです」と織田氏は言う。
市場や消費者の変化を見極めながら、いかに他社がやっていないことに挑戦するか――。それこそが、300年を超える歴史を持つ国分グループ本社の真骨頂であり、原動力というわけだ。
「ただその挑戦も、自分たちだけではできません。例えば『K&K 缶つま』シリーズであれば、まず食材の生産者の方たちの協力があってこそ。私自身、“これだ!”と目を付けた食材の産地に数多く足を運んできました」
三重県松阪市もその一つだ。そこに、本場フランスでも希少なブルゴーニュ種のエスカルゴの完全養殖を成功させた人物がいたからである。
「こちらの“本気”が伝わらなければ、貴重な食材を分けてはもらえませんから、直接訪問するのは当然のこと。商品開発を成功させる第一の鍵は、人間関係です。仕入れ元と仕入れ先ではなく、同じ目標に向き合う仲間になれなければうまくいかない。好評を得た『K&K 缶つま極 三重県産 エスカルゴ・ド・ブルゴーニュ』も当初は思うような味にならず、何年も試行錯誤しました。その中で、“レモン汁と塩で前処理をしてみよう”など先方からさまざまな提案があったのは、お互いが相手を信用し、本気になっていたからだと思っています」
生産者とのリアルなコミュニケーションを大切にする織田氏が、もう一つ現場で必ず行うのが生産の様子を確認することだ。松阪のエスカルゴは徹底した温度・湿度管理がなされたハウスで養殖され、広島にある別の現場ではカキの殻が手作業で丁寧にむかれていた。
「それをじかに見ているか、いないかで、お得意先の小売店などで商品の価値を説明するときの“熱量”が変わってきます。人に聞いた話や紙で読んだ情報では、本当のところは伝えられない。私自身はそう思っています」
出張中の移動時間はアイデアの整理に最適
これくらいの売価にするためにこれくらいの食材で、という発想ではつまらない商品になる。自分が心から「面白い」と思っているかが大事と考える織田氏が、その「面白い」を見つけるために意識しているのが“人が集まる場所”に行くことだ。
「話題の場所や施設、はやっているお店には必ず人気の理由があるはずなので、自身で体感したいんです。そこで蓄積したものが、いつか商品開発のヒントや糸口になることがありますから」
例えば近年のアウトドアブームの中では、調理道具をそろえて手の込んだ料理を作る人がいる一方、グランピングなどが流行し、手軽に本格的な料理を楽しみたいという人も増えている。まさにそうした現場での実感がきっかけとなって生まれたのが、アウトドアで簡単においしい料理を作れる「K&K “CAN”Pの達人」シリーズだ。
「食の好みやニーズは多様で、時代によっても変化する。その意味で商品開発のアイデアが尽きることはない」
そう話す織田氏が、そのアイデアの断片を整理したり、つなげたりする一番の時間は出張での移動中だという。パーソナルな時間、空間が確保しやすい乗り物の中は落ち着いて物事を考えたり、漠然としたイメージを言語化するのに最適というのがその理由だ。商品開発部門の責任者となりデスクワークも増えたが、「新しい何かと出合って発想を広げるため、今後もできるだけ現場を大事にしたい」と言う。
「継続する心・革新する力」を企業理念に、他社がやらないことに挑戦し続ける国分グループ本社。これからも、従来の常識にとらわれない斬新な商品を生み出してくれそうだ。
Business trip for Innovation─会いに行く、が今日を変えていく─
- "人が集まる場所"には必ずその理由がある。そこで見つけた「面白い」が商品開発のヒントになる
- 現場だから見える課題、聞ける本音がある。そこにお客さまの求める最適解が隠れている
- 栽培のプロの勘や経験と蓄積してきた遺伝資源を掛け合わせることで世界が認める"種"ができる
- 予期せぬアイデアが現場には眠っている。生地に触れ、人と話す、これが欠かせない