「甘め」の仮定でも2代目から危険水域

また私の周辺でも、独自に皇位継承をめぐる「期待値」計算を行っている。その結果によると、スタート時点で1人だった場合、将来どの世代も必ず結婚されて、代々欠かさず“2人”のお子様に恵まれるという、かなり甘めの仮定でも「継承可能性」の数値は以下の通り。

2代目→75%
3代目→56%
4代目→42%
5代目→32%

楽観的な前提でも不安を拭えない数字になる。お生まれになるお子様が“1人”という現状により近い条件だと、次のような結果になる。

2代目→50%
3代目→25%
4代目→13%
5代目→6%

早々と2代目から危険水域に入ってしまう。「次の世代の男系男子が1人だけ」という皇室の現実の険しさについて、改めて気づかされる。

「男系男子」ルールには持続可能性がない

もともと、正妻以外の女性(側室)から生まれた非嫡出子・非嫡系子孫による皇位継承という選択肢が除外されるという、(明治の皇室典範がまったく予想していなかった)皇室の歴史上、かつて前例がない局面に入った時点で、皇位継承資格を「男系男子」に限定するというミスマッチなルールに持続可能性がないことは分かり切っていた。そのルールにいつまでもしがみついていれば、皇位の継承も皇室の存続も行き詰まる他ない。したがって、「男系男子」限定というルールの見直しは避けられない。

それを怠ると、悠仁殿下のご結婚相手が必ず健康な男子を1人以上生むこと以外に、皇室存続の可能性は望めなくなる(もしそれがかなっても上記の通り薄氷を踏むような危うさから逃れられないが)。そんな想像を絶する重圧下では、畏れ多いが悠仁殿下のご結婚自体が至難になりかねない。

ルールを変えれば「安泰」になる

一方、皇統に属する女子・女系については、最高法規である日本国憲法が「世襲=天皇の血統による継承」に含まれるとして認めている(内閣法制局・執務資料『憲法関係答弁例集(2)』参照)。そこで持続可能性を期待しがたく、下位法である皇室典範のルールにすぎない「男系男子」限定を解除し、女子・女系による継承も可能にした場合はどうなるか。スタート時点が同じ1人で、お子様が1人と仮定しても「期待値」計算の結果は以下の通り。

2代目→100%
3代目→100%
4代目→100%
5代目→100%

男女ともに継承資格があるので当然の結果ながら、まさに安泰。

しかも、女子の継承資格を認める場合、悠仁殿下と同世代の内親王が2人おられるので、それらの方々も加えるとスタート時点の人数は3人となる。内廷プラス2宮家という形だ。

その場合、“直系優先”の原則に照らして内廷を担われるのは、皇女でいらっしゃる敬宮としのみや(愛子内親王)殿下になろう。こうした形なら、皇室の将来がより磐石になるのは改めて言うまでもない。もし途中でお子様を授からなかったり、ご独身を通されるようなケースが時にあったとしても、それを乗り越えて行ける可能性が開かれる。

日本人は皇室の存続を望むのか、それとも望まないのか。もし存続を望むのであれば、明治の皇室典範に由来し、側室制度を前提とした「男系男子」限定ルールを、前提条件の根本的な変更に合わせて、しっかり見直す以外に方法はないはずだ。

高森 明勅(たかもり・あきのり)
神道学者、皇室研究者

1957年、岡山県生まれ。国学院大学文学部卒、同大学院博士課程単位取得。皇位継承儀礼の研究から出発し、日本史全体に関心を持ち現代の問題にも発言。『皇室典範に関する有識者会議』のヒアリングに応じる。拓殖大学客員教授などを歴任。現在、日本文化総合研究所代表。神道宗教学会理事。国学院大学講師。著書に『「女性天皇」の成立』『天皇「生前退位」の真実』『日本の10大天皇』『歴代天皇辞典』など。ホームページ「明快! 高森型録