約30年間続いたデフレ傾向が、今、インフレに

日本で1990年代半ば以降約30年間続いたデフレ傾向が、今、インフレに転じています。これまでの先進国におけるデフレ要因の1つ目は「グローバル化」でした。30年前に東西冷戦が終結し、イデオロギーの対立がなくなり、市場が開放されて一気にグローバル化が進みました。

複眼経済塾株式会社取締役・塾頭 エミン・ユルマズさん
撮影=国府田利光
複眼経済塾株式会社取締役・塾頭 エミン・ユルマズさん

先進国で生産していたモノを新興国に委託すれば、生産コストを抑えられます。代表例は中国です。中国は、「人類最大のデフレ輸出マシン」といわれるくらい世界中に「デフレを輸出」していました。中国に生産拠点が移ることで、先進国では中間層以下の人々は国内で高い賃金を得られず、可処分所得が減ってお金を使わなくなり、さらにデフレが加速。新興国は逆にグローバル化の恩恵を受けてGDP(国内総生産)を大きく伸ばし成長しました。

しかし今、米中を軸にした新しい冷戦が始まっています。その象徴的な出来事がロシアによるウクライナ侵攻です。新冷戦は「アンチグローバル化」を加速し、世界を分断するため、政治コスト、製造コスト、輸送コストなどが増え、物価を押し上げています。

2つ目のインフレ要因は、いわゆる「グリーンフレーション」です。脱炭素化やESGの観点で企業活動を行うことも、コストを上げることにつながります。

そして、3つ目が、先進国を中心とする労働力人口の減少。働き手が減ることでアメリカなどでは賃金が上昇しています。労働者の賃金の上昇は、構造的なインフレ要因です。

アンチグローバル化も脱炭素化も人口減も、これからさらに進むため、今後も構造的なインフレは続くと予想されます。