ビジネス環境が激変する中、企業の人材獲得の悩みは深刻さを増し、一方で人々の働き方は多様化した。複雑化するニーズに応える最適解はどこにあるのか──。慶應義塾大学大学院教授・岸博幸氏、パーソルキャリア・鏑木陽二朗氏による対話からヒントを探る。

企業が縛られている「雇用の勘違い」とは

【鏑木】人口減少、働き手の不足、さらにはコロナ禍の影響と、企業が直面する課題はどんどん複雑化、多様化しています。そうした中で必要な人材を雇用したいと考えても、非常に厳しいと言わざるを得ません。

岸 博幸(きし・ひろゆき)
慶應義塾大学大学院教授

【岸】日本では不幸にも、高度経済成長期以降、雇用に関する大きな勘違いが生まれてしまいました。雇用というと新卒一括採用、正社員、年功序列、終身雇用、これが当たり前だと多くの企業が思い込んでいます。経済のパイが拡大し、人口が増え続け、特別なことをしなくても企業が成長できたためです。ところが1990年代に入り、グローバル化、デジタル化が進んで世の中の変化が速くなると、日本的な雇用システムはイノベーションの障壁となりました。人材が固定化されたことで価値観も考え方も似通った平均的に優秀な人間ばかりになり、斬新なものが生まれにくくなったのですね。

【鏑木】加えて、採用できる企業、採用がうまくいかない企業の差がより鮮明化していると感じます。これまでは「足りなくなったら雇えばいい」という考え方が根本にありましたが、これからは柔軟に人材を活用する発想に転換していく必要があると考えています。

【岸】おっしゃるとおりです。かつては豊かだった日本発のイノベーションは二番煎じが目立つようになり、経済は沈滞から抜け出せないまま30年が過ぎました。この先、失われた40年、50年と続いていくでしょう。この状況を打開し得るのは、さまざまな人材のクリエーティビティーの活用です。それぞれの専門性や知識などをうまく取り入れ、自社のビジネスモデルの進化、イノベーションの創出につなげていくことが大切だと思います。

プロジェクト単位で外部のプロ人材(※)活用を提案

【岸】そもそも優秀な人材を見極めて採用することは簡単ではありませんよね。立派な経歴を持つ役員クラスの人材を雇用したものの、残念ながら……という経験が私にもあります。若手にもいい人材がいるわけですし、政府が公表した総合経済対策においても転職や副業の促進、リカレント教育がうたわれています。日本の最大の課題である生産性の低さを改善するためには、昔ながらの正社員雇用にこだわるのではなく、人材の流動化が欠かせません。パーソルキャリアさんでは、そのような動きを後押しするサービスを展開されているわけですね。

鏑木陽二朗(かぶらぎ・ようじろう)
パーソルキャリア株式会社
執行役員 兼
タレントシェアリング事業部
事業責任者

【鏑木】副業やフリーランスといった外部のプロ人材活用の促進を目的に、パーソルキャリアの中途採用を支援するdodaに続く柱として、2022年5月に新ブランド「HiPro(ハイプロ)」をスタートしました。いわば「課題解決を目的としたプロフェッショナル人材活用サービス」です。11年に立ち上げた、専門性を有したプロ人材活用で企業が抱える事業課題を解決に導く「i-common(アイコモン)」が前身です。

【岸】そんなに早い時期からプロ人材の活用に取り組んでいたのですね。

【鏑木】実は私自身、父が中小企業の経営者ということもあって、当時から人材採用の難しさを痛感していました。経営を揺るがすような問題にぶつかっても相談できる相手がいないため、一人で抱え込んでしまう。いざ問題解決のために人を採用しようとしても、採用力が弱くなかなかうまくいかない。そんな父の姿を見て、経営課題を抱える企業を支援する仕組みをつくりたいと考えたのです。そこで、課題解決をゴールにした人材活用をもっと手軽に提供したいと始まったのが「i-common」でした。10年ほど経ち、前述したように、外部環境の変化により企業の課題は複雑化、多様化しています。それ故、企業が求める人材も多岐に変化してきています。一方で「新規事業開発」「IPO(新規上場株式)」など、都度必要な人材を獲得しようとすると多大な資金と時間を費やさなければなりません。「HiPro」であれば、特定領域に専門性の高い外部のプロ人材を提案することで、トータル費用の圧縮、プロジェクト完遂までの期間短縮といったメリットを提供することができます。

※高い専門性・知識を有した副業・フリーランス人材。

ジョブの細分化によって高精度のマッチングが実現

【岸】企業の意識やサービス活用の状況はいかがですか。ニーズの高さを感じているでしょう。

【鏑木】外部のプロ人材を活用している企業は、ほんの一部に限られているのが実情です。副業・フリーランスの働き方を希望する個人が増加する一方で、特に中小企業や地方企業では、まだまだ人材活用というと「雇用」、つまり「社員や契約社員を採用する」という選択肢しか持たない企業がほとんどです。ですから「外部のプロ人材をどう使っていいか分からない」「頼んでみたいがテーマの切り出し方で行き詰まっている」といった企業が多いという印象を受けています。

【岸】確かに、人材の能力を見極めるのは難しく、重要な業務に外部のプロ人材を用いた経験も不足している。「HiPro」ではどのような支援を行っていますか。

【鏑木】私たちの強みはシステムに任せきりではなく、必要に応じて企業さまの悩みにしっかりと寄り添えることです。例えば「HiPro Biz(ハイプロビズ)」では経営層の方がどんなことに困っているのか、どんな方法で解決するかなどを丁寧にヒアリングした上で、最適なプロ人材をご提案します。加えて、ジョブ単位でのマッチング精度を高めるために、私たちが進めているのがジョブコードの細分化です。例えば新規事業開発といっても「ビジネスモデル策定」「ユーザー/顧客調査」「プロジェクト進捗しんちょく管理」などに分けることができます。業務の構造を分解し、シンプルにして、マッチングの質の向上を図っています。現時点でジョブコードは600超です。

【岸】とても面白いアプローチですね。外部のプロ人材をどう使ったらいいのか分からない企業ばかりだからこそ、豊富なノウハウを持つパーソルキャリアさんがやることに大きな意味があると思います。そうして正しい形での人材活用が広がれば、日本が変わるチャンスがきっと訪れるはずです。

【鏑木】ありがとうございます。プロ人材活用の機会を増やすことで、意識改革を進めていきたいと思います。

ハイプロ

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