既存マンションは「管理」を徹底リサーチ
8. 管理とコミュニティ
マンションの寿命を決める
「管理」とコミュニティづくり
――さて、ここまでは主に資産価値をめぐる購入時のチェックポイントについてお聞きしてまいりましたが、居住後に資産価値を下げないためにはどのような配慮が必要でしょうか。
長嶋 それはすべてマンションの管理にかかってきますが、うちはマンション管理組合向けのコンサルもやっていまして、素晴らしい管理状態を保っているところもあれば、どうしようもないところもある。星野さんのところはほんとうにエクセレントなマンションですけれど、標準的なところではやる気がないわけではないが、忙しいので積極的にやろうとまでは思わない人が多いというのが大半です。一方で、がんばりすぎて失敗して居住者から非難されて引っ越すとか、そんな不幸な事例まで生まれて、結構むずかしい問題だと思います。
管理組合の理事には人間力と経営力が同時に必要で、入居者それぞれのリテラシーもやはり大事ですね。その意味では、既存のマンションを買うなら、どういう管理状態になっているかを徹底的にリサーチしなければいけません。また、新築マンションの場合は販売時に管理の重要性をどこまで説明してくれているかがポイントですが、この点はグレードや価格で変わってくるところがあります。
坂根 ごく一般的なお話ですが、さきほどの防災面のチェックポイントで出た地盤や構造という点に加えて、震災以降に指摘されているのはコミュニティの重要性です。防犯という観点から大事だという認識は皆さんお持ちなのですが、では実際にコミュニティづくりへの働きかけができているかというと、できていないと答える方が多いですね。日常レベルで顔と名前、それに家族構成くらいは皆さん知っていていただきたいと思います。数百戸のマンションでは少しむずかしいかもしれませんが、同じフロアと上下階程度は最低限ごあいさつをする、という意識はとても重要です。
――白金タワーでは、どのような状況でしょうか。
星野 昨年の5月に、賃貸を含めた居住者全員を対象にアンケート調査を実施し、その中で、他の居住者との付き合いを5つの選択肢で尋ねました。その結果は、「ほとんど付き合いがない」が29パーセント、「あいさつ程度の付き合いがある」が28パーセント、「立ち話をする人がいる」が31パーセント、「悩みを相談できる人がいる」が12パーセントでした。坂根先生がご指摘された点からいえば、100マイナス29、つまり最低限のコミュニティ形成度は71点と評価できるのでしょう。ただ、全戸の35パーセントを占めている賃貸世帯は、ほぼ2年間で入れ替わっているので、ハンディを負っていると考えています。
長嶋 マンションはどのくらいもつのかとしばしば聞かれます。この点については、人間の寿命を計算するのと同じやり方で、早稲田大学理工学術院の小松幸夫教授が平均寿命を出しています。これまでに建てられたものでは、おおよそ45~55年だろうということです。しかし、日本の設計や建築の技術は世界一だと思っています。設計・施工がしっかりしていて、その後の点検やメンテナンスなどの管理状態がきちんとしていれば、最低100年はもちます。ただし、この三拍子がそろっていないと、おそらく30~50年程度ではないでしょうか。つまり、倍も違ってしまうことになります。
「築○年」と書くのは日本だけ
ちなみに、販売図面に「築○年」と書くのは日本だけです。欧米では築年数など全く関係ない。50年、100年は普通で、建物が古いといえば1600年代とか、関ヶ原の時代ですよ(笑)。むしろ築年数がたっていたほうがコミュニティも落ち着いていて、地域のメルクマール的なマンションになっている。このように時間が経過したものに価値がついていくのが成熟した文化ですね。日本は住宅の世界ではいまだ新興国文化です。
星野 短期的に住むのなら「駅何分、築何年」でよいかもしれませんが、長期的視野で購入する場合は、居住者の住みやすさに関する満足度や今後の居住意向も重要な判断材料になると思います。先述のアンケート調査では、満足度は94点、区分所有者に限ってみれば約7割が今後も住み続けたいと回答しています。
長嶋 今後、新築マンションは減る一方なんですよ。それは今、マンションを所有している方や、これから購入する方には朗報で、なぜなら自分の持っている物件の資産価値が維持されやすい。大量供給されると中古価値が維持されなくなります。そうはいっても、すべての価値が維持されるわけではなくて、一部はむしろ人気が出て価値が上がり、一方で打ち捨てられスラム化するものもいっぱい出てくるでしょう。
星野 その意味でも、管理組合にはこれまでにない経営感覚、マーケティングセンスが求められると思います。本誌の読者にはぜひ、賢い買い物をして、賢い区分所有者となり、積極的に管理組合の経営に関わってもらいたいと思います。
――なるほどそれは面白い視点ですね。本日はありがとうございました。