定期預金にまとまったお金があるのに自動車ローンを組んでしまう。どう考えても合理的ではない判断をしてしまうのはなぜか。経済コラムニストの大江英樹さんは「定期預金は『自分のお金』という意識があるため、それを崩すことに抵抗感があるのに対して、ローンはどこからか入ってくるお金という感覚になってしまうのです」という――。
固定金利キャンペーンのチラシとミニチュアカーと現金
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実はお金に色は付いている

よく「お金に色は付いていない」と言われます。ところが日常生活における私たちの行動を見ていると、どうもお金に色が付いているとしか思えないような場面に行き当たります。

例えばこんな場合を考えてみて下さい。田舎の母親が苦労して働いて自分に仕送りしてくれた10万円のお金があるとします。一方、たまたま宝くじを買って当たった10万円があったとします。さてあなたはどちらを先に使うでしょう? 恐らくほとんどの人はたまたま宝くじで当たったお金を先に使うでしょう。

でもこれは考えてみると不思議な行動です。なぜならどちらも同じ価値を持っているにもかかわらず、二つのお金には価値に差があるかのように思えるからです。「お金に色は付いていない」と言われるものの、実はお金には明らかに色が付いているのです。この心理が行動経済学で言う「メンタル・アカウンティング」と言われているものです。

メンタル・アカウンティングというのは直訳すれば「心の会計」ですが、人は無意識の内に自分の心の中に異なる会計勘定や財布をいくつも持っているといわれています。本来、お金というのはトータルで管理すべきなのですが、メンタル・アカウンティングにとらわれてしまうと、それぞれの会計勘定で別々の判断をすることによって、みごとに不合理な行動をとってしまうのです。

定期預金を崩すのが嫌で自動車ローンを組む人

例えば自分の車を購入する時を考えてみましょう。仮に200万円の自動車を買おうと思ったとき、手元や普通預金口座にそれだけの現金があれば、それを使うでしょう。でももし定期預金に入っているお金しかなかったらどうしますか? その定期預金を解約して買うか、あるいは定期預金は崩さずに自動車ローンを組むでしょうか。

どちらが合理的なのかははっきりしています。自動車ローンの金利はだいたい1~3%ぐらいです。これに対して銀行の定期預金は比較的金利の高いネット銀行でも1年物で0.02%程度、メガバンクであれば0.002%が普通です。もし200万円の自動車ローンを組んだ場合、仮に金利が2%だとしたら初年度は4万円の利息を払わなければなりません。一方、定期預金を解約することで得られなくなる利息は0.02%だとしても400円です。つまり定期預金を解約せずに自動車ローンを組むというのは400円を失うのが惜しくて4万円を払うことですから、どう考えてもこれは合理的な行動とは言えません。

ところが、定期預金を解約するのが嫌で自動車ローンを利用する人は結構多いようです。これがメンタル・アカウンティングなのです。