子どもを田舎で育てることにはどんなメリットがあるのか。東北大学准教授の細田千尋さんは「最新の大規模な研究で田舎育ちの人のほうが、空間認識能力が高く、育った環境の地形が複雑であればあるほど、その能力は高いことがわかりました」という――。
山の中の川で遊ぶ少女
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緑に囲まれた環境の方が、認知機能の発達が良い

子どもを育てるなら、教育リソースが豊富な都会かいいか、あるいは自然に囲まれてのびのび育つことができる田舎がいいか。子育て世代のあいだで、この議論は長いこと行われてきました。実際、置かれた環境の文化的・地理的特性は、その人の認知的特性に大きく影響することがいくつもの研究から明らかにされています。

例えば、児童期の子どもが、緑の多い地域に住むことと、認知機能の発達や精神機能の健全さに関連があることが示されていますし、都会での生活は、精神疾患のリスクが高くなるという報告もあります。さらに、ストレスなどによる負の情動の脳内処理に違いが見られ、情動を処理する脳領域である「扁桃体」は、都会に住んでいる人で、より強く活性化されていました。つまり、ストレスがかかった時、都会に住んでいる人の脳が、よりネガティブな反応をしていたと言えます。

ところがこれらの研究では、都会に暮らす子どもと田舎に暮らす子どもで能力や精神機能が異なるかについて比較していることが多く、子どもの頃に育った環境が、その後の人生にどのような影響を与えるのかについてはフォーカスされてきませんでした。つまり、田舎で育ったか都会で育ったかで、大人になってから能力に差が生まれるかどうかは分かっていませんでした。

田舎で育つ方が、生涯にわたって空間認識能力が優れている

ところがつい最近になって、世界38カ国、39万7162の人に対して行った調査で、田舎で育った人の方が、ナビゲーション能力が優れており、それは生涯にわたって影響があるということが、『ネイチャー』に発表されました。

さらに、育った環境の地形が不規則的で複雑であるほど、その能力は高かったというのです。

整備されていない山や森といった複雑な地形の中で子どもたちが遊ぶには、俯瞰的視点を持ち、頭の中で、地形などの複雑な立体構造や自分の位置や状況などの身体性情報を処理していく必要があります。一方で、整備され直線的でシンプルな地形を持つ都市で育つと、それほど高度な処理が必要ありません。

そのため、規則的な地形が特徴の都市部で育った場合でもある程度の空間把握の能力が身につくものの、不規則的で複雑な地形を持つ田舎では、幼少期の日常的な遊びの中で、よりこれらの能力が身につくのでしょう。

そして、脳は可塑性という、大人になっても変化していく特性を持っていることが近年多くの研究から明らかになっているにもかかわらず、この空間認識に関わる能力については、子どもの頃の育った環境の影響が、生涯にわたる違いの基盤として、出来上がっている可能性があるのです。