三菱自動車が9年ぶりにフルモデルチェンジしたSUVプラグインハイブリッドEV(PHEV)の新型『アウトランダー』は全社を挙げて開発に取り組んだフラッグシップモデルであり、開発陣達の熱い思いが込められたクルマだ。今回、紹介するのは最上級のPグレード。どんな工夫と技術がつまっているのだろうか。

十勝のテストコースで1カ月間泊まり込み

「EVといっても航続距離が短いのは困る」というのはどんな利用者でも同じ思いである。しかし、距離を伸ばしすぎるのも問題だ。車重が重くなりすぎるからである。

新型アウトランダーではフロントモーターの最高出力を先代の60kWから85kWへ、リアモーターは70kWから100kWへと大幅に引き上げた。駆動用バッテリーも総電力量を13.8kWhから20kWhへ大容量化した。その結果、EV走行距離が最大57kmから87kmまで伸びた。

開発責任者である同社製品開発本部セグメント・チーフ・ビークル・エンジニアの本多謙太郎さんによると、100kmまで伸ばすと重くなりすぎるので、日常使いとしてフル充電で出かけて、帰宅したときにちょうど空になることを目標に87kmとしたという。さらにガソリンタンクも45Lから56Lに増量したことで、総合的な航続距離が1000kmを超えた。このことについて本多氏は北米ユーザからガソリンタンクを大きくしてほしいという要望があったと語る。ガソリンスタンドのない国道を延々と走らざるを得ないアメリカでも1000kmなら対応できるからだ。

大幅に向上した新型アウトランダーの魅力は航続距離だけでなく、走行性能そのものにも表れている。カギを握るのは三菱自動車が伝統的に強みを持つ四駆技術に加えて、今回新たに採用された7つのドライブモードだ。詳細は後述するが、どんな悪路だろうと運転に慣れていない初心者でもスムーズなコーナリングやハンドリングが可能となった。

開発陣は同社が持つ北海道十勝地方のテストコースで、悪路を再現して何度も試運転し、ドライブモードのチューニングを1カ月間泊まり込みで行ったという。それだけの思いが詰まったクルマだ。

アウトドアだけでなく、街場にあってもしっくりくるデザインと上質感に驚かされる。ラグジュアリーSUVの面目躍如といったところ。

感性品質を実現するPQスコア

スペックや機能性から説明したものの、実は新型アウトランダーの開発で重視したのは「感性品質」だった。

本多さんによれば、感性といってもデザイナーひとりのフィーリングに任せるということではなく、明確な指標を細かく立てて、シートやコンソールの手触りからスイッチの感触まで利用者の感性に関わる面で高品質と三菱自動車らしさを追求したという。

今回、開発過程で新たに採用したのが「PQ(パーシブド・クオリティ)スコア」だ。パーシブ(perceive)とは「知覚(感知)する」の意味で、五感を通じた品質をスコア化したものだ。その項目数は100個以上でライバル車を分析して設定し、点数化した。

例えば他車の内装総合点が85点とすれば、新型アウトランダーでは90点以上を目指すために、内装を構成するインストルメントパネル(インパネ)に上質な素材を使って2点アップさせるとか、サウンドシステムのスピーカーをレベルアップして3点アップさせるなど、感性品質を論理的かつ数値的に突き詰めていった。

随所に質感の高いソフト・マテリアルが使われている。自然と腕や手が触れる場所に配されており、心憎い配慮に思わず脱帽。
左/フル液晶のディスプレイは視認性抜群。必要な情報を瞬時に確認できる。右/BOSEのスピーカーが驚くほどの高性能。車の静粛性もあって、バスドラムの低音をしっかり感じられる。

「神は細部に宿る」こだわりぶり

PQスコアづくりに当たっては、同じ評価者がライバル車と新型アウトランダーを冷静に評価して指標化した。同社内では以前も同様の活動をしたことはあるが、今回はそのやり方を整備・体系化して臨んだ。もちろん、すべて点数化できるものではなく、外観のエッジのシャープさなどデザイナーのこだわりもあり、スタイリングチームとして全体のフィーリングを担当し、PQチームは細かいものづくりの質感を追求した。

「この両者の融合で作り上げていったのです」と本多さんは語る。

PQチームによる内装のこだわりは例えば、インパネやコンソールなどによく表れている。パッと目に付くのが水平ですっきりしたインパネ、幅広いコンソールで、手が触れる部分には柔らかなソフトパッドが使われ、ステッチが施されている。上質さだけでなくて暖かさも感じさせるデザインだ。

表示機器も使いやすさに注力した。フロントウインドウに映し出される「ヘッドアップディスプレイ」はコントラストが明確で見やすい。メーター表示用の「フル液晶ドライバーディスプレイ」は三菱自動車初の12.3インチフルカラー液晶で旧来型と新しいモードに切り替えることができる。メーター専用のスピーカーも装備されて、表示や操作の切り替えなどの効果音を新たに開発するこだわりぶりだ。まさに「神は細部に宿る」だ。

アイコンで分かりやすいドライブモードセレクターにより、誰でもSUVらしい走りを実現できる。ホイールのクリック感も心地いい。

指紋がなくなるほど操作性を突き詰める

操作系では「三菱タッチ」と呼ばれる「見て分かるはっきり感」や「触れて分かるしっかり感」で統一した。そのこだわりぶりも並ではない。例えば、路面状況に応じて選べる7つのドライブモードセレクターだ。握りやすく、回したときにしっかりと切り替えの手応えを感じられる操作性を求めて、開発者は「試作品を何回もつくり、指紋がなくなるほど回して確かめた」という。

ちなみに、7つのドライブモードとは「POWER(高速道路などパワフル走行)」「ECO(経済性)」「NORMAL(標準)」「TARMAC(山道など)」「GRAVEL(砂利道や未舗装道路など)」「SNOW(雪道)」「MUD(ぬかるみや深雪など)」である。

NORMALから右5つは路面に関するモードで、クルマに詳しくない人でも直感的に選べ、手元を見なくてもドライバーディスプレイにイラストが表示される。特に雪道ではその効果がはっきりと分かり、初心者でも安定したコーナリングやハンドリングができる。

本多さんによれば「運転の上手でない私もうまく曲がれたので自慢すると、開発者に『本多さんではなく、クルマが曲げてくれたんです』と反論されました(笑)。NORMALからPOWERモードに切り替えると、そのパワーの違いがよく分かります」という。

ドライブモードと共にドライバーを支援するのが、車両運動統合制御システム『スーパーオールホイールコントロール』(S-AWC)である。従来は前輪だけだったブレーキ制御を後輪にも追加し、滑りやすい路面でも最適に制御してくれる。ハンドル角、駆動トルク、ブレーキ圧、車輪速などをセンサーが検知し、意のままの操縦性を高めている。

四駆の強みを最も発揮できるクルマ

新型アウトランダー開発を主導してきたセグメント・チーフ・ビークル・エンジニアの本多謙太郎氏。先代アウトランダーの開発から同車を手掛ける。先代で実現できなかった課題を9年ぶりのフルモデルチェンジでクリアできたと胸を張る。

PHEVはもちろんEVとガソリン車のハイブリッドだが、設計の肝となるのがEVで、モーター走行が最大の魅力だ。新型アウトランダーはツインモーター4WDとして四駆の強みを最も発揮できるクルマである。

開発者にとってモーターは制御しやすく、やりたいことができるシステムだ。悪路でも走破性をよくするには後輪の駆動力がカギとなる。新型アウトランダーではリアモーターの出力を上げているので、スムーズなコーナリングが可能なのだ。

自宅にEV充電用コンセントを設置すれば、安い夜間電力を使って7.5時間でフル充電できる。また、急速充電では38分で80%充電できる。仮にバッテリー残量が減ってもガソリンさえタンクにあれば、走行時の回生ブレーキで充電可能だ。運転中のチャージは得したような気分になるものだが、そのチャージ状況も分かりやすく表示されるようになっている。

新型アウトランダーは三菱自動車のDNAを活かしつつ、さらに進化させて開発陣の高い熱量を封じ込めた作品と言えそうだ。まさにどんなユーザも満足できる頼れるクルマだろう。

走り出したくなるSUV!
三菱自動車らしさを具現した乗り味の秘密とは