経営環境が大きく変化し、先行きの不透明感も強まる中、事業拠点の立地についてもいっそうの戦略性が求められている。戦略立案に当たり、経営層などが知っておきたいポイントをレポートする。

国内事業拠点の立地計画は2021年度にV字回復

見通しが立ちづらい経済情勢が続く中、企業は立地についてどう考えているのか。一般財団法人日本立地センターの調査によれば、2021年度、「国内事業拠点の立地計画」は大幅に改善している。

「(新設・増設・移転の)計画がある」と回答した企業は、製造業で20.3%。20年度の13.7%から6.6ポイント増となった。同様に物流業は27.8%で、20年度の21.7%から6.1ポイント増えている。下図のとおり、いずれもコロナ禍前の数値を上回っており、V字回復といえる状況だ。

一般財団法人日本立地センター「2021年度 新規事業所立地計画に関する動向調査」

調査時期が昨年10月下旬で、国内の新型コロナウイルスの感染状況が比較的落ち着いていたことから、調査結果内では「需要回復への期待感も、立地計画割合を押し上げた要因の1つと考えられる」とも述べられている。確かにそうした側面はあるだろう。ただ、需要回復の時期を見極め、それに対応できる態勢をいち早く整えたいと考えている企業は少なくないはずだ。ピンチの後のチャンスを成果につなげようというわけである。

企業が事業拠点を設置するに当たっては、当然ながらそのための場所が必要となる。ここで見逃せないのが、国内の産業用地が不足気味であるという現状だ。各種インフラが整備された工業団地などについては、新たな造成が進められていない地域も多い。条件に合った用地を入手するには、かつて以上に緻密な準備が必要である。

今後の成長の基盤となる新たな事業拠点。計画を実現するには、情報戦略もいっそう重要になってきている。

イノベーションが求められる今、地元企業の情報収集も重要に

用地入手の競争が激しくなる中では、他社が「立地先に何を求めているか」を知っておくことも大事だろう。

同じ日本立地センターの調査によれば、企業が「自治体等に求める立地環境向上への取組(業種別)」は下図のとおり。上位の「優遇制度の充実」「域内外の交通アクセスの向上」「人材確保・育成の支援」などは、かねて重視されてきた要素に違いない。

一般財団法人日本立地センター「2021年度 新規事業所立地計画に関する動向調査」

一方で、「地元企業に関する情報提供」「事業連携等のマッチングへの支援」が製造業でも、物流業でも10%を超えているのは、注目に値するポイントといえる。現在、持続可能な経営を実現するため、多くの企業が必要としているのはイノベーションだ。しかし、多様化、細分化する市場のニーズに応えるイノベーションを自社だけで生み出すのは簡単ではない。そこで今の時代、外部との連携、共創が重要となっているのである。

立地先を選定する際に、地域産業や地元企業についてきめ細かいリサーチができているかどうか。これは今後、企業の競争力を左右する大切な要素の一つになりそうだ。

データに基づき、地域の実情を把握、分析できる「地域経済分析システム」

立地戦略を成功させる第一歩は、地域の実態を正しく知ることだ。そこで、そのためのツールとして経済産業省と内閣官房(まち・ひと・しごと創生本部事務局)が提供する「地域経済分析システム(RESAS)」を紹介したい。

地域経済に関連するさまざまなビッグデータを「見える化」するためにつくられたこのシステムは、インターネット上で誰でも利用することが可能。地域ごとの人口推計や産業構造、地域経済循環などを調べられる。

例えば、ある市では、今後人口構成がどのように変化するのか。製造業の売上高が全産業の中でどれくらいの割合を占めているのか。地域内のお金の流れがどのようになっているのかなどを簡単につかむことができる。

地域データ分析の「入り口」として初心者でも簡単に使える仕組みになっており、下のとおりグラフィックがとても見やすいのも特徴である。

さらに、2020年6月からは新型コロナウイルスが地域経済に与える影響などを把握できる「V-RESAS」も公開されており、その情報の充実度は高まっている。

地域に関する正確な情報は、立地戦略の質を向上させることにつながるし、思わぬ発見をもたらす可能性もある。国が提供する多様な情報も効果的に活用したいところだ。