男女で“格差”を設けることが許されるのか

そもそも、女系天皇とセットにならない女性天皇・女性宮家は、およそ常識外れな、かなりイビツなものになるのを避けられない。同じ「天皇」なのに、男性ならお子様に皇位継承資格が認められ、女性なら認められない。このような差別の客観的・合理的な根拠は何か。性別だけを理由として“一人前の天皇(お子様に継承資格あり)”と“半人前の天皇(お子様に継承資格なし)”とを峻別するというのは、現代において相当「野蛮」な制度と自覚すべきではあるまいか。「日本国の象徴」「日本国民統合の象徴」である天皇どうしの間に、男女で“格差”を設けること自体、不自然だろう。

高森明勅『「女性天皇」の成立』(幻冬舎新書)
高森明勅『「女性天皇」の成立』(幻冬舎新書)

そもそも、女性天皇にせよ女性宮家にせよ、ご結婚相手の男性は、皇族の身分を取得されるのか、それとも国民のままなのか。天皇又は宮家の当主のご結婚相手が国民のままというのは、かなり無理があるのではないだろうか。国民のままなら憲法第3章の適用対象だから、さまざまな権利や自由が保障されていなければならない。政治・経済・宗教上の活動における自由も最大限、尊重されるべきだろう。しかし、そのことと、「国民統合の象徴」である天皇の地位や、その天皇のご近親である宮家の当主の配偶者としてのお立場は、はたして整合的なのか。それ以前に、一つの世帯を営むのに、一方が天皇又は皇族で、もう一方が国民という形は、いささか異常ではないか。

従って、女性天皇および女性宮家の当主の配偶者は当然、男性皇族の場合の配偶者と“同じよう”に、皇籍を取得されるべきだ。又、そのようにご両親が皇族であれば、その間にお生まれになったお子様にも皇族の身分が与えられるのは、当たり前だろう。

しかし、そのお子様は皇族であられながら、しかも、男子にも女子にも皇位継承資格が認められている制度のもとで、親でいらっしゃる天皇、宮家の当主たる方が「女性」であるというだけの理由で、決して継承資格が認められないことになる。

高くなる結婚のハードル

そのような格差をことさら設けることは、女性天皇や女性宮家の当主のご結婚に際し、大きくマイナスに作用することはあっても、決してプラスには働かないだろう。その上、もし配偶者には皇族の身分すら与えられないとすれば、皇室のメンバーの中で、自分だけが(男性皇族のご結婚相手の女性は皇族とされているのに)“国民のまま”であるにもかかわらず、一方では国民に認められている権利や自由の多くが事実上、制約されかねないことになって、ご結婚のハードルは極めて高くなるだろう。

女性天皇と女性宮家は制度上、セットで認めなければならないし、その場合、女系天皇も決して欠かしてはならない。消去法で残ったのは結局、女性天皇、女性宮家、女系天皇のセットだった。

高森 明勅(たかもり・あきのり)
神道学者、皇室研究者

1957年、岡山県生まれ。国学院大学文学部卒、同大学院博士課程単位取得。皇位継承儀礼の研究から出発し、日本史全体に関心を持ち現代の問題にも発言。『皇室典範に関する有識者会議』のヒアリングに応じる。拓殖大学客員教授などを歴任。現在、日本文化総合研究所代表。神道宗教学会理事。国学院大学講師。著書に『「女性天皇」の成立』『天皇「生前退位」の真実』『日本の10大天皇』『歴代天皇辞典』など。ホームページ「明快! 高森型録