人生100年時代のキーワードとなっている「資産寿命」。それを延ばすためにすべきことは何か──。多くの個人投資家と接してきた経験を持つ経済コラムニストの大江英樹氏に聞いた。

ライフプランを立てるとき大事なことは何か

──日本人の平均寿命が着実に延びる中、「資産寿命」の重要性が語られるようになっています。

【大江】元気でやりたいことができてこそ長生きがうれしいわけで、資産寿命を延ばすことは誰にとっても高い関心事でしょう。では、どうすればそれを実現できるのか──。私は、証券会社勤務時代に3万人以上の個人投資家の相談を受け、現在も経済コラムニストとして資産家の取材などをしています。すると、確かな資産を築き、お金に不安のない生活を送っている人の共通点が見えてくる。その一つが収支、特に支出の管理をしっかりと行っていることです。

彼、彼女らは、節約をしているわけではありません。むしろ、やりたいことには十分お金を使っている。しかし、無駄な支出は決してしないのです。不要な保険に入ったり、利用していないスポーツクラブやサブスクリプションサービスの会員のままでいたりということが一切ない。そうしてお金を手元に残し、投資などの原資としています。その意味で、支出の管理は将来に向けた資産形成の前提と言えるでしょう。

──先を見据え、ライフプランやマネープランを立てることもやはり重要でしょうか。

【大江】それ自体はもちろん大事です。ただその際、いくつかの条件を設定し、将来を予測するようなことをしてもあまり意味がないと私自身は思っています。なぜなら、10年後、20年後の経済情勢は誰にも分からないし、家族がどのような状態になっているのかも定かではありません。

重要なのは、将来を「予測」することではなく、現在を未来に「投影」すること。つまり、今の状態が10年、20年と続いたとして、健全な家計を維持できるかシミュレーションするのです。経済や家族の状況は、当然時間がたつにつれて変化しますから、そこは定期的に見直しを行えばいい。不確実な条件に基づいて将来を予測するより、今の状態を続けると、将来はどうなるかを考えた方が、資産寿命を延ばすのには有効です。

大江英樹著『資産寿命 人生100年時代の「お金の長寿術」』を参考に作成。

自分が持っているお金の購売力の維持を意識すべき

──その他、これから資産形成、資産運用を本格的に始めようと考えている人が留意すべきことはありますか。

【大江】投資を始めるなら、その目的は何なのか。ここをきちんと考えてほしいと思います。「もうけるため、お金を増やすために決まっている」と言われるかもしれませんが、では何のためにもうけるのか──。私がよくお話しするのは、自分が持っているお金の“購買力を維持すること”の重要性です。

おそらく資産運用に関心を持つビジネスパーソンで、「誰もがうらやむ大金を手に入れたい」と考えている人は少数でしょう。多くは、まさに将来のために資産寿命を延ばしたい。そう思っているはず。そこで大事になるのが、いかに資産の購買力を維持するかという視点なのです。

──例えば、物価が上がれば、現金の価値は下がり、購買力は低下することになります。

【大江】その通りです。仮に年3%ずつ物価が上昇した場合、20年後、1000万円の現金の実質的な価値は500万円台になってしまいます。もちろんお話ししたように、今後の物価動向を予測することはできませんが、タンス預金にも相応のリスクが存在する。ライフプランを立てたり、その見直しを行ったりする際、また資産運用を実践する際、単に資産の額だけに目を向けるのではなく、それが持つ購買力を意識することは重要なポイントと言えます。

経験を重ねて自分の勝ちパターンを

ライフプランで大事なのは将来を「予測」することではなく現在を未来に「投影」すること
大江英樹(おおえ・ひでき)
経済コラムニスト
株式会社オフィス・リベルタス 代表
大手証券会社で25年間にわたって個人の資産運用業務に従事する。2012年にオフィス・リベルタスを設立。行動経済学、資産運用、企業年金、シニア層向けライフプランをテーマとした執筆、講演などで定評がある。ファイナンシャルプランナー向け研修も行う。

──資産運用に成功する人、失敗する人の違いはどこにあると思いますか。

【大江】一つ大きいのは、自分の頭で考えているかどうか。例えば個人投資家向けのセミナーで、「今、何に投資したらいいですか?」と質問をするような人はうまくいかないことが多い。きっとその人も、「誰と結婚したら、幸せになれますか?」と他人に真面目に聞くことはないでしょう。しかし、投資対象については質問する。ある意味、資産運用を甘く考えているのです。やはり成功している人は、自分で情報収集をして、自分で判断をしている。投資で得るお金は、決して不労所得ではないのです。

──人任せではいけない。

【大江】はい。資産運用に絶対的な正解はありません。その人の資産状況や年齢、家族構成、さらには性格などによっても適した手法は異なります。ネット上には、個人投資家の成功談なども多く見られますが、うのみにせず、“自分ならどうか”と考える材料にするのがいいでしょう。

──最後に改めて、資産運用に関心を持つ人へメッセージをお願いします。

【大江】誰もが成功する投資手段がない一方で、確かな資産を築いている人は、必ず自分の勝ちパターンを持っている。これも多くの個人投資家と接してきた私の強い実感です。そして、それを見いだすにはやはり経験を重ねるしかありません。じっくりと長期投資に取り組む、短期投資で利益を探る。株式投資か、あるいは不動産投資か──。タイプは本当にさまざまです。投資の成否には、その人の性格や心理も影響しますから、「これしかない!」と原理主義に陥ることなく、柔軟な思考と広い視野で、ぜひ自分なりの勝ちパターンを見つけてほしいと思います。