皇室と日本からの脱出

皇族に嫁いだ女性たちのみならず、皇室に生まれて、何不自由なく暮らしているようにみえる女性皇族でさえも、複雑性PTSDになるほど辛い思いをしているという事実は、私にとっては大きな衝撃であった。眞子さんはもちろん小室圭さんを愛しているのだと思うが、それと同時に、なんとしても皇室を出たいという強い意志も感じた。これは、あながち間違いではないだろう。

つまり、眞子さんの結婚をめぐる一連の動きは、皇太子妃時代の雅子さまバッシングにまでさかのぼることができる出来事だといえる。そう考えれば、眞子さんが、きらびやかな家柄や財力のある人ではなく、小室圭さんを結婚相手として選んだことは腑に落ちる。格式のある相手では、辛い現状は何も解決されない。普通の男性、しかし英語が堪能で、海外で暮らすことのできる能力のある相手と一緒に、眞子さんは日本から脱出したかったのだ。

先例を作った眞子さんの結婚

私たちが敬愛する皇室が、そこにいる女性たちが傷ついているという状況によって成り立っているとしたら、と考えてしまう。そして、ミーハーに皇室報道を楽しんでいること自体を非常に申し訳なく思う。

今では、皇位継承者を育てている秋篠宮家も、大変な状態にある。皇族の方々には幸せに暮らしていただきたいのだが、現状の制度ではそれは難しいのだろうか。

このような現状を踏まえれば、眞子さんが結婚一時金を辞退したことは、非常に大きな意味を持つ。今後、女性宮家を創設するにしろ、旧宮家の男性を復帰させるにしろ(民間人として暮らしていた方々が、いきなり皇族になれるのか、また国民が敬愛できるのかと問われれば、非常に非現実的な選択肢であるようにも思われるが)、これから結婚する女性皇族は、結婚一時金を受け取るのか辞退するのか、問われることになる。別の見方をすれば、眞子さんの結婚は、結婚一時金さえ受け取らなければ、(もし女性宮家が設立されるとしても)好きな相手と結婚し、そこから離脱することも可能になるという先例になるのではないか。

女性皇族は、皇室のルールにのっとって結婚するか、しないか、それとも自由に離脱するのかを、結婚のときに選んでもいいのだという先例を、眞子さんのケースは作ったとも言えそうだ。

現在26歳の眞子さんの妹、佳子さまを含め、今後の女性皇族は、どのような選択をなさるのだろうか。

千田 有紀(せんだ・ゆき)
武蔵大学社会学部教授

1968年生まれ。東京大学文学部社会学科卒業。東京外国語大学外国語学部准教授、コロンビア大学の客員研究員などを経て、武蔵大学社会学部教授。専門は現代社会学。家族、ジェンダー、セクシュアリティ、格差、サブカルチャーなど対象は多岐にわたる。著作は『日本型近代家族―どこから来てどこへ行くのか』、『女性学/男性学』、共著に『ジェンダー論をつかむ』など多数。ヤフー個人