まわりと違うことをすることが、幸福度を下げる

さて、これまでの話から皆さんもお気づきのように、個人の幸福度は、社会の環境から影響を受けます。

「大多数の人と違うことをすること」が心理的な負担や周囲の人々との軋轢を生み、幸福度を押し下げるというメカニズムがありそうです。

例えば、みんなが結婚する社会では、未婚でい続けるのは肩身が狭く、息苦しくなるでしょう。また、女性の社会進出が進んでいない社会において女性が働き続けることは、心が折れることも多かったと予想されます。これらの例が示すように、周囲の社会環境は、各個人の幸福度に影響を及ぼすと考えられます。

これはまた、「社会環境が変化すれば、同じ行動をとっても、幸福度に及ぼす影響が違ってくる」ことも意味します。

この観点から考えると、脱皆婚社会は、未婚者にとって望ましい変化です。

これまで少数派だった未婚という状態が非少数派になるためです。結婚という選択を以前よりも周囲の環境を気にせず、自分の意志で決めることができる。このような婚姻状況の変化は、未婚者の幸福度の向上に寄与したと考えられます。

結婚と幸福度という観点から見た場合、現代の日本社会は一昔前よりは生きやすい社会だと言えるのです。

佐藤 一磨(さとう・かずま)
拓殖大学政経学部教授

1982年生まれ。慶応義塾大学商学部、同大学院商学研究科博士課程単位取得退学。博士(商学)。専門は労働経済学・家族の経済学。近年の主な研究成果として、(1)Relationship between marital status and body mass index in Japan. Rev Econ Household (2020). (2)Unhappy and Happy Obesity: A Comparative Study on the United States and China. J Happiness Stud 22, 1259–1285 (2021)、(3)Does marriage improve subjective health in Japan?. JER 71, 247–286 (2020)がある。