耳元にAIが常駐する日常

【金子】僕は、そういう世界を作りたくてコエステをやっているんです。これからAIが進歩すると、AIアシスタントみたいなのが、イヤホンだけでなく、いろんなものに宿るようになると思うんです。今までなら、例えば来月引っ越ししたいとなると、まずネットで検索して安いところを探したりという行動をとりますが、耳元にAIアシスタントがいれば、「引っ越し業者を探しておいて」って頼める。「A社が今キャンペーンをやっていて安くなっていますから予約しておきましょうか?」「おねがい」みたいな世界になっていくと思うんです。

そうすると、AIと会話する中で自然に広告が差し込まれるようになるでしょうね。「お疲れのようですから、コーヒーを買っておきましょうか」「よろしく」と。このときのコーヒーは、実は広告なんですね。でも、あまり広告だとは思われず、ネガティブな印象を与えない。自分に必要な情報が適切なタイミングに提供されて、「よろしく」と言うだけで実現できるわけです。

その中で、やはりせっかくなら自分の好きなアイドルに話しかけてもらった方がうれしいじゃないですか。しかも、音声合成の技術を使えば、「○○さん、お疲れ様」と名前を呼んでもらったりもできます。

好きなアイドルが勉強を応援

【緒方】「俳優の佐藤健さんが話しかけてくれる」とか人気が出そう(笑)。

緒方憲太郎『ボイステック革命 GAFAも狙う新市場争奪戦』(日本経済新聞出版)
緒方憲太郎『ボイステック革命 GAFAも狙う新市場争奪戦』(日本経済新聞出版)

【金子】前に女子高生を対象に、「コエステの技術を使って、こういうサービスがあったらいいなと思うものを考えてみましょう」というワークショップをやったんですが、「勉強がつらいときに、好きなアイドルの声で勉強を教えてくれるとうれしい」というアイデアが挙がってましたね。勉強の合間に、「○○ちゃん、あと30分だけ頑張ろう!」と、応援してくれたり励ましてくれたりする。

【一同】(笑)。

【宮坂】おもしろい! でも、危ないところもありますよね。ディープフェイクみたいなのが出てきそう。オレオレ詐欺が進化して、本当に息子の声を合成して騙す。

【金子】実はコエステは、科学警察研究所にも協力しているんですよ。これから音声合成を悪用した犯罪も出てくるだろうということで、警察も、今のうちから研究しておく必要があると考えているようです。

【八木】すごいですね。

【金子】あと、コエステの音声には、人間の耳では聞き取れないような信号が埋め込まれているんです。いわば音声ウォーターマーク、電子透かしのようなものです。それをやっておかないと、やっぱりオレオレ詐欺とかに使われたときに判別できなかったりしますから。犯罪対策もやっているんですよ。

緒方 憲太郎(おがた・けんたろう)
Voicy代表取締役CEO

ビジネスデザイナー、公認会計士。大阪大学基礎工学部卒業後、同大学経済学部も卒業。2006年に新日本監査法人に入社し、その後Ernst & YoungNew York、トーマツベンチャーサポートを経て起業。2015年医療ゲノム検査事業のテーラーメッド株式会社を創業、2018年業界最大手上場企業に事業売却。2016年音声プラットフォームVoicyを開発運営する株式会社Voicyを創業。同時にスタートアップ支援の株式会社Delight Design創業。新しい価値をビジネスで設計するビジネスデザイナーとして10社以上のベンチャー企業の顧問や役員にも就任し、事業戦略、資本政策、サービス設計、PRブランディング、オープンイノベーション設計、その他社長のメンターやネットワーク構築を行う。著書に『ボイステック革命 GAFAも狙う新市場争奪戦』(日本経済新聞出版)

金子 祐紀(かねこ・ゆうき)
コエステ執行役員

2005年、東芝入社。クラウドTVやメガネ型ウェアラブル端末等の新規事業の立ち上げなどを経て、2016年に音声合成技術を活用した声のプラットフォーム「コエステーション」事業立ち上げ。2020年2月にエイベックスとのJVでコエステ株式会社を設立し、東芝デジタルソリューションズから出向して執行役員に就任。

宮坂 貴大(みやさか・たかひろ)
BONX代表取締役CEO

東京大学教養学部、東京大学大学院総合文化研究科修士課程を経て、2011年、ボストンコンサルティンググループに入社。2014年、チケイ株式会社(現株式会社BONX)を創業し、代表取締役CEO就任。2015年にスマートフォンアプリと連動してグループトークができるウェアラブルコミュニケーションデバイス「BONXX」を発表。スポーツ/小売/介護/飲食/宿泊/病院/建築現場/リモートワークなどさまざまな場面で活用されている。

八木 太亮(やぎ・たいすけ)
オトナル代表取締役

2008年リコージャパン入社。楽器EC事業での起業を経て、2013年ウェブメディア事業を行う株式会社オトナルを創業。2018年にウェブメディア事業を売却し、2019年から音声領域に特化。広告主向けのアドテクノロジーを活用した音声広告プランニングと、ラジオ局や新聞社などメディア企業へのデジタル音声広告実装支援を展開している。著書に『いちばんやさしい音声配信ビジネスの教本 人気講師が教える新しいメディアの基礎』(インプレス)