備えあれば憂いなし。これからセカンドライフを迎える現役世代にとっても重要な心得だ。「高齢者ライフスタイル構造基本調査」(※)などを行う日本能率協会総合研究所の稲富健氏に、充実したシニアライフに向けて意識しておきたいことなどを聞いた。

※日本能率協会総合研究所が全国に居住する60~90歳の男女を対象に調査。サンプル数は2500。調査期間は、2020年10月15日~26日。

さまざまなITツールの活用も広がっている

日本人の健康寿命が延びるなか、第二の人生への向き合い方も、より積極的なものになっている──。そんなシニア層の意識の変化について、稲富氏は次のように説明する。

「私たちが昨年10月に実施した『高齢者ライフスタイル構造基本調査 2020年』の人生の楽しさに関する質問では、『年を取っても、老化が進んだなりに、人生を楽しめると思う』と考えている人が72.9%、『年を取ると老化が進み、できることが減り人生が楽しくないと思う』と考えている人が27.1%と前者が後者を大幅に上回っています(図1)。また、『積極的に老化予防をして、いつまでも若々しくありたい』と考える人の割合も3年前と比べて増えており、全体としてシニア層の前向きな姿勢が見て取れます」

日本能率協会総合研究所「高齢者ライフスタイル構造基本調査 2020年」より。

さらに同調査によれば、健康や老化防止、美容など、体のためにお金を使うことについても積極的な人が男女とも8割近くに上っている(図2)。

日本能率協会総合研究所「高齢者ライフスタイル構造基本調査 2020年」より。

日本能率協会総合研究所では、シニア層を対象としたヒアリングも行っており、稲富氏自身、年間100人以上の生の声に接しているという。

「実際にお話を聞くと、例えばスマートウオッチを使って健康状態をチェックするなど、最新のツールを使いこなしている人も多いですね。現在はヒアリングも主にオンラインで行っていますが、その際も『さっきまで友人とオンラインお茶会をしていました』という話を聞くことがあります。関心のあることについて熱心に情報を集め、ITツールも取り入れながら、活発に行動するシニアの姿が見えてきます」

コロナ禍は高齢者の暮らしにも大きな影響を与えているが、もともと多彩な趣味を持っているため、状況に応じた活動を楽しみながら、充実した時間を過ごしている人も少なくないという。

「現在の高齢者は、『縁側でお茶を飲んで、一日のんびり過ごす』というかつてのイメージとはずいぶん変わってきています」と稲富氏は話す。

一方、将来の不安についてはどうだろうか。「高齢者ライフスタイル構造基本調査 2020年」における心配事に関する質問(複数回答)では、第1位が「自分の健康」で79.8%、第2位が「配偶者の健康」で53.1%となり、第3位の「生活費が足りなくなること」24.1%を引き離した。

「ヒアリングをしてみると、『介護で子供や家族に迷惑を掛けたくない』という声はやはり多く聞かれます。つまり、“自立”が一つのキーワード。その上で、長く元気でいたいという意識がうかがえます」

引退後のシニアは二分化している

稲富 健(いなどみ・けん)
株式会社日本能率協会総合研究所
経営・マーケティング研究部 部長
2008年日本能率協会総合研究所入所。主に民間企業の経営・マーケティング戦略立案支援を目的としたさまざまなリサーチ・コンサルティングに従事。主な対応領域は新規事業開拓、新商品開発、コミュニケーション戦略、ブランド戦略。民間企業のみならず、学術研究から官公庁関連調査まで幅広く対応する。

近年では、「アクティブシニア」という言葉の持つ意味合いも変わってきているという。

「かつてマーケティングの世界では、購買行動が活発なシニア層を『アクティブシニア』としてセグメント化し、ターゲットとする動きがありました。しかし今はそうした“一部の特別なシニア”と“それ以外”という切り口はあまり見られなくなっています。シニア層全体を対象にして、『いかにアクティブな暮らし、人生をサポートするか』という考え方が主流になってきています」

では、そうした活動的な人生を実現するために、これからシニアになる現役世代が留意すべき点は何だろうか。

「これまで仕事に打ち込み、それを喜びとしてきた人たちが定年や引退を迎えると、時間をもて余す人と、自分がしたいと思う活動に取り組み、日々充実感を持って過ごしている人に分かれます。まさに二分化している状態で、この違いは自身の満足感や喜びがどこから来るかを、理解しているか否かから生まれると考えています」

引退前に、「何をすれば、自分の心が満たされるか」に真剣に向き合い、しっかり第二の人生を組み立てていく。この事前プランニングができるかどうかが、人生100年時代を有意義に過ごせるかを決めるというわけだ。

「例えば、現役時代の経験や趣味を生かし、社会貢献活動をしている人がいます。そうした人は関心のある分野について、定年前からアンテナを張り、情報収集をしている。また、セカンドライフの生活の場について考える場合も、単に衣食住が満たせればいいというわけではありません。自分にとっての理想の暮らしや生活リズムがどんなものかを理解した上で、それに合う条件のものを選べればミスマッチを防ぐことができるでしょう」

今の自分を起点にしてシニアライフを思い描く

これからの時代、「現役」と「シニア」の区別や「シニアにはシニア向け」といった考え方は、より弱まっていくと稲富氏は分析する。

「スマートウオッチを活用しているシニアは、それが自分にとって自然だから使っているだけで、自身を“特別なシニア”だとは考えていないでしょう。その意味でも、将来の準備にあたって現役時代と引退後を明確に分けて考えず、連続性を意識することは一つのポイント。『まだ先のこと』と後回しにすることなく、今の自分を起点に理想のシニアライフを思い描いてほしいと思います」

コロナ禍を受け、人生で何を重視すべきか、改めて考えさせられた人は多いに違いない。それを入り口にして、納得のシニアライフに向けた準備を始めるというのも、一つの賢い方法といえそうだ。