「さもありなん」と誰も驚かなかった
モデルで実業家のマリエさんが、かつて大物芸人から「枕営業」の誘いを受けたことをインスタグラム動画で告白、話題となった。雑誌モデルとして人気が出、まだそれほど芸能界に馴染みのない18歳当時、出演していたバラエティ番組のMCである大物芸人に収録前に挨拶できなかったことから呼び出された酒席で、「やらせろ」と迫られたのだという。
その場に同席していた、当時中堅で、現在はベテランとして人気を博す芸人は大物芸人の言動を咎めることもなく「いいじゃんいいじゃん、やりなよ」と煽ったと、マリエさんは主張する。その芸人に対してもマリエさんは「許さない」と語気を強め、枕営業を断った結果として大物芸人と親しい制作会社へ出向いて謝罪し、その番組への出演がなくなったとの顛末までが大きな話題となった。
悲しいことだが、世間はマリエさんが33歳の大人の女性になってようやく口にできたそんな15年越しの告発を聞いて、「ああ、あの黒い噂で引退した大物芸人ね、さもありなん」と誰も驚かなかった。枕営業、という言葉自体にも、「だって芸能界だものね」とすっかり耳が慣れてしまっていた。だが、あえて当事者たちの当時の年齢、つまりMC芸人50歳、中堅芸人42歳、そしてマリエさん18歳という具体性をもってあらためて状況を想像すれば、それが我々の住む一般世間であればどれだけ醜悪でひとりの女性の人生を深く傷つけるに十分な出来事か、わかるのではないだろうか。それなのに、SNSは決してマリエさんへの共感に溢れているとは言い難い。
話題になったのは、たった1週間ほど
さらに、本来ならいわゆる「#MeToo」運動の典型とも言える、エンタメ業界の古典的で構造的なハラスメントに対する告発のはずなのに、この件への注目は1週間程度ですっかり失われ、他のセンセーショナルなニュースに取って代わられた。引退した大物芸人は沈黙を守り、現在も活躍する芸人の事務所からは「事実ではない」と否定する声明が出され、材料が供給されないために報道が続かない。何より、週刊誌やウェブでいくつかの後追い報道はあっても、新聞やテレビで扱われることはなく、見事なスルーぶりに「むしろ変じゃない?」と違和感を口にする人もいる。
なぜマリエさんの告発は世間からも、マスコミからもスルーされるのか。考えるに、どうやら2つの理由がありそうなのである。