「NURO Biz」をはじめとする様々な法人向けICTサービスを提供しているソニービズネットワークスは、世の中の変化に積極果敢に対応する姿勢を貫いているという。その具体例や思想の背景などについて、小笠原康貴代表取締役社長から詳しく話をうかがった。

高速性・安定性で競合を圧倒する通信を軸に、事業領域を拡大

――まずはソニービズネットワークスが果たすべき役割と、手掛けている主力事業についてご説明をお願いいたします。

【小笠原】そもそも当社は、主力サービスの筆頭に挙げられる「NURO Biz」の本格展開を図るために、ソニーネットワークコミュニケーションズの100%出資子会社として設立されました。「NURO Biz」とは、高速光回線通信「NURO」の法人向けブランドです。

ソニーネットワークコミュニケーションズの「NURO 光」が個人向けであるのに対し、当社は法人向けに「NURO Biz」を展開しております。個人向けでは広く画一的な内容のサービスを提供していますが、法人向けでは個々の企業ごとに異なるニーズに対応することが求められてきます。

そこで、お客様とより近い距離で接する体制を整えるために、NURO事業の法人部門が独立するかたちで設立されました。「NURO Biz」では競合他社のサービスと比べてより高速で安定的な通信環境を相対的に安価なコストで実現していると自負しておりますが、さらにお客様が展開しているビジネスに必要なインフラやアプリケーションまでワンストップで提供するのが私たちの役割です。

当社はこの「NURO Biz」を中核と位置づけつつ、現在は他の領域にも事業を拡大しています。「bit-drive」は法人向けのクラウドサービスとネットワーク、セキュリティ、アプリケーションをオールインワンで提供しているもので、「Managed Cloud with AWS」はAWS(アマゾン ウェブ サービス)を用いたマネージド・クラウド(クラウド管理システム)です。

また、クラウド型勤怠管理システム「AKASHI」は直感的に操作できるユーザーインターフェース(UI)が特徴で、15年以上にわたって培ってきたノウハウを活かした安全サポートも高い評価を頂戴しております。

さらに、総務をはじめとするバックオフィス業務従事者をサポートする目的で「somu-lier」というオウンドメディアを運営しており、コロナ禍に安心して働くために求められる機能を集約したクラウド型勤務支援ツール「somu-lier tool」も昨年11月にリリースしています。

コロナ禍で困窮している企業をサポートするツールを無償で提供

――通常の勤怠管理だけにとどまらず、従業員の日々の体調チェックや、企業内で新型コロナ陽性者が発生した場合の対応・管理を自動化できる「somu-lier tool」も、やはり同じような経緯で開発されたのでしょうか?

【小笠原】もともと親会社のソニーネットワークコミュニケーションズは、かねて「健康経営」という観点からもサービスの開発を進めてきました。こうしたことから当社内においても、全従業員の日々の健康状態をチェックできるツールがあれば管理する側は状況に応じて適切に対処できるし、安心して働ける環境も整うはずだという思想が根づいていました。

だから、新型コロナの感染拡大が広がっているのを受けて、「こんなサービスが求められてくるのでは」との意見がグループ内から自然と寄せられ、急きょ当社においてプロジェクトチームが発足した次第です。「somu-lier tool」には、従業員の健康チェックや勤務形態別の勤怠管理などの機能とともに、陽性者が発生した場合の濃厚接触者の特定やその接触度合い、出社制限を行うべき部署などの分析が自動で行われるサービスが搭載されています。

――再び緊急事態宣言が発出される前にリリースを果たし、なおかつ無償での提供に踏み切ったことも大英断でしたね。

【小笠原】コロナ禍で勤怠管理や感染対策に困窮している企業をサポートするために立ち上がったプロジェクトですから、冬場の流行しそうなシーズンを迎える前にローンチさせることが大前提でしたし、無償提供でなければ意味がないという方向性で社内の意見が一致しました。

営業担当者に寄せられたお客様の声としては、陽性者が発生した場合の対応もさることながら、日頃から従業員の健康管理を行えることが何よりの安心だという感想が目立っているようです。また、在宅勤務と出社勤務のハイブリッドの勤務体制を敷いているケースが多いことから、出社予約や出社率管理といった機能に期待が寄せられ、現在提供を検討しております。

小笠原康貴(おがさわら・やすたか)
ソニービズネットワークス株式会社
代表取締役社長
1996年、日本電信電話(NTT)に入社し、技術開発や事業企画などに携わった後、2001年にソニーへ転職。同じく通信事業の技術開発を担い、「So-net」や「NURO 光」を手掛けるソニーネットワークコミュニケーションズにも籍を置く。18年にはソニーネットワークコミュニケーションズの子会社であるソニービズネットワークスにも加わり、法人事業の拡大に注力。副社長を経て、20年6月から現職。

AI活用本格化の布石となるツールを投入。変化への対応力を磨く

――もはや通信インフラは世の中に不可欠なものとなってきていますし、コロナ禍に対応した「somu-lier tool」を投入するなど、貴社が手掛けるビジネスは社会貢献にも大きく結びつくものですね。そのリーダーとして、どのようなミッションを掲げてマネジメントを進めているのでしょうか?

【小笠原】ソニーグループ全体を見渡しても、B to Bのサービスを展開している私たちは希有な存在です。B to Bのビジネスにおいては、お客様である企業を徹底的にサポートし、その利益成長に貢献していくことが大命題であると私は捉えています。

お客様が利益成長を遂げれば、結果的に私たちの事業も拡大し、当社内で働く個々の人材も着実に育っていくはずです。そして、今日の時代に企業が成長していくためには、通信インフラをはじめとするICTの活用が絶対条件になってくるでしょう。

より高速で高品質の通信環境を安定的に提供するという愚直で地道な取り組みを続けながら、そのうえでプラスαとして企業のビジネスを変革させる一助となる新たなサービスを創出していきたいと考えております。

――企業のビジネスを様変わりさせる可能性を秘めたテクノロジーと言えば、やはりAIに大きな期待が寄せられそうですね。

【小笠原】おっしゃる通り、未来を展望するとAIもポテンシャルは非常に高いと思います。もっとも、現状のAI関連サービスにおいてすでにマネタイズを果たしているのは、株価の動向予測などといったごく一部にとどまっています。

ほとんどがPoC(Proof of Concept=概念実証)のフェイズを脱していませんし、AIを上手く活用すれば自社が抱えているデータがどれだけの価値を生み出すのかについて、多くの企業はまだ十分に認識できていないでしょう。きちんと形式化したデータとして蓄積されていないケースも少なくないのが現実です。

しかし、これから5年、10年といったタームで展望すれば、瞬く間にインターネットの普及が進んだ局面と同じようなピッチでAIの活用が進んでいくことでしょう。

その先駆けとして、当社は2020年8月にAIを搭載した「Prediction One Biz」をリリースしました。わずか数クリックの操作で膨大なデータを解析し、高度な予測分析を自動実行できるツールです。

同様のサービスの構築をシステムインテグレータに依頼すると数百万円、数千万円といった費用がかかるのに対し、当社のサービスは年間19万8000円で利用できます。AIが本格的な普及期を迎える前の段階で、より多くのお客様にそのポテンシャルや活用のノウハウを理解していただくことを目的に破格の料金設定にしました。

――世の中が変化するスピードはいっそう加速しているだけに、こうして普及をうながす起爆剤となるサービスを戦略的に投入していくことが大きな意味を有していますね。

【小笠原】2020年を迎えたばかりの時点では、あっという間に世界中が新型コロナに席巻されるとは、誰しも想像できなかったことでしょう。VUCA(ブーカ。Volatility=変動性、Uncertainty=不確実性、Complexity=複雑性、Ambiguity=曖昧性)という言葉も生まれているように、まさに今は一寸先が見通せない時代です。

しかしながら、目の前で生じている変化には必ず対応しなければなりません。強烈な衝撃を受けるような変化が待ち受けていることを覚悟したうえで、その際には迅速かつ柔軟に対応できる体制を整えておくことが肝心でしょう。そういった敏しょう性を備えることが企業として大きな強みになってくると私は考えています。