コロナ禍が経営のあり方に変化を迫るなか、企業はどんな行動を取り、展望を描いているのか。各種調査の結果などをもとに、立地の現状を概観し、今後の戦略のポイントを考えてみたい。

一都三県を取り巻くエリアで立地面積の26%超を占める

経済、社会を大きく変化させている新型コロナウイルスの感染拡大。企業の立地活動には、どのような影響を与えているのか。経済産業省による「工場立地動向調査 2020年上期(1月~6月)」をもとに探ってみたい。

2020年上期の工場立地面積については全国で440haと前年同期比で40%減となった。ただ地域別に見てみると、比較的多くの企業が立地している場所がある。一都三県を取り巻くエリアだ。茨城県、栃木県、群馬県、山梨県の4県の立地面積の合計は117ha。これは全体の26.6%にあたる。2018年、2019年の調査でも、それぞれ20.3%、19.6%を占めているから、もともと人気のエリアであるには違いない。それでも、2020年上期はその傾向をいっそう強めたといっていい。

このエリアの魅力は、一言でいえばバランスの良さだろう。東京などからのアクセスがよく、人材も確保しやすい。それでいて、ある程度の広さの土地を手に入れることもできる。

経済産業省「工場立地動向調査 2020年上期(1月~6月)」をもとに作成。

実際、企業が立地先を選ぶときのポイントは上のグラフのとおり。「本社・他の自社工場への近接性」「関連企業への近接性」は、多くの企業が求める条件だ。コロナ禍においては、サプライチェーンの寸断も大きな経営課題となった。円滑なロジスティクスを実現するにあたって、拠点同士の地理的な近接性は重視すべき要素に違いない。

コロナ禍に限らず、事業環境の突発的な変化は今後も当然起こり得る。リスクに対応するには、交通アクセス、人材、土地の属性などを総合的に見極めた精緻な立地戦略がいっそう求められている。

リスクに対応する柔軟性・冗長性を意識した立地活動が重要に

ウィズコロナの時代、暮らしと産業活動の基盤となる都市のあり方はどのように変化するのか。すでにそうした議論も各所で行われている。

例えば国土交通省は、都市再生や都市交通、公園緑地や都市防災、医療、働き方など、さまざまな分野の有識者61名にヒアリングを実施。昨年8月末に「新型コロナ危機を契機としたまちづくりの方向性」(論点整理)を公表している。

国土交通省「新型コロナ危機を契機としたまちづくりの方向性」(論点整理)より抜粋して作成。

そこで指摘されていることの一つは、大都市、郊外、地方都市それぞれのメリットを活かして魅力を高めていくことの重要性だ。コロナ禍でテレワークが進展し、また“生活重視”に意識が変化するなか、働く場と居住の場の融合が起こっていく可能性、東京一極集中の是正が進みやすくなる可能性がある。都市が持つ集積のメリットは活かしつつも、ニーズ、変化、リスクに対応できる柔軟性・冗長性を備えた都市が求められると提言している。

変化が激しい今、“柔軟性や冗長性の確保”は、経営においても不可欠。その意味では、事業活動の場として地方の価値が相応に高まることになるだろう。そもそも、感染症の拡大防止には「三つの密」の回避が重要である。すでに一部の地方自治体では、独自に感染症に強い環境づくりを推進。大都市圏との差別化を図っている。

さらにウィズコロナ時代の危機管理では、感染症が拡大する中で自然災害が発生する「複合災害」への目配りも求められる。事業継続の観点から、自然災害の少なさはかねて企業が立地先に求める条件だったが、今後はより意識する必要があるといえる。

先を見すえた国内拠点の充実を考えている企業も少なくない

経済活動が停滞して経営が難しくなる一方で、変化へのスピーディーな対応は求められる。そうした状況で企業はどのような展望を描いているか。一般財団法人日本立地センターは、昨年の10月に立地計画に関する動向調査を実施。そのなかで、「国内事業拠点の再編に関する展望」についても聞いている。

一般財団法人日本立地センター「2020年度新規事業所立地計画に関する 動向調査」より作成。

結果は「現状維持」が74.3%と多数を占め、それに続いて「既存拠点の拡充(ライン増強・規模拡大)」「新規拠点の開設」との回答がそれぞれ7.1%、6.9%に上った(「未定」も7.1%)。逆に、「既存拠点の閉鎖」「既存拠点の縮小(ライン削減・規模縮小)」との回答はそれぞれ1.7%、1.5%と比較的少なく、全体として前向きな企業が一定数存在することが見てとれる。

社会が大きな変化、混乱のさなかにあるときは、知恵や工夫によってライバルと差別化を図る機会でもある。先を見すえて拠点の充実を考えている企業が少なくないことを、経営者は知っておくべきだろう。

経済産業省が公表している「ウィズ・ポストコロナ時代における地域経済産業政策の検討」という資料も、今後の動きが大事だと提言している。「コロナ禍以後の機運をとらまえ、DXや、イノベーション(価値創造)、地方での人材活用を一体で進め、 地域のリソースを磨き、地域にヒト、モノ、カネを呼び込む好循環(仕事の変革)を実現することが重要」というのがその内容だ。

ピンチをいかにチャンスに転換するか──。これは、現在多くの企業に共通する課題に違いない。今こそ、経営の手腕が問われている。