日本とまったく異なる海外メディアの視点

では、今回の報道ではどうだろう?

日本の報道を見ていると、二人のご結婚を認め祝福してあげたいという声がある一方、まずは小室さんが母親の金銭問題を含め目に見える形で対応する必要があるという主張の記事が多かった。また、小室さんはまだ学生の身、結婚については小室さんが弁護士の試験を終え、就職してから決めるべきだという意見も見られた。

一方、海外の報道では、眞子さまのご結婚について認めるべき、認める必要はないなどとの論調を述べる記事はほとんどなかった代わりに、日本の皇室の将来を危ぶむ記事が多かったのが印象的だった。

「今回の騒動は、日本の皇室は世界で最も脆弱な王室であるということを思い出させるものだ」と書いたのは前述のニューヨークタイムズだ。

縮小(shrink)する日本の皇室

この記事だけでなく、眞子さまのご結婚をめぐる話を報道した海外のメディアのほとんどが、日本の皇室が年月とともに縮小(shrink)している点に言及していた。

イギリスのBBC放送も、第2次世界大戦前の日本の皇室では遠い従妹、華族の息子や娘たちとの結婚が多かったが、戦後の皇籍離脱により「今日では、日本の若い姫たちは、一般人の男性と結婚する以外の選択肢はない」と伝えた

ちなみに官邸が以前発表した資料によると、皇籍離脱が行われた前日の1947年10月13日の皇室会議で、片山哲議長(内閣総理大臣)は「皇位継承の御資格者としましては、現在、今上陛下に二親王、皇弟として三親王、皇甥として一親王がおわしますので、皇位継承の点で不安が存しないと信ずる次第であります」と説明している。

それから73年たった現在、40歳以下の皇室のメンバーは7人のみ。そのうち悠仁さまを除いてはすべて女性だ。

報道によると政府は、結婚後の皇族女子を特別職の国家公務員と位置づけ、「皇女」という新たな呼称を贈り皇室活動を継続してもらう制度を創設する検討に入ったといわれている。眞子さまがもし結婚された場合にはこれに当てはまる。

しかし、皇女といっても国家公務員ということになれば女性皇族として皇室に残ることにはならない。女性天皇や女系天皇の容認にもつながらない制度であり、もし皇女制度を導入することで皇位継承策の議論が止まってしまうような事態となれば、皇室が直面する問題を先延ばしにするだけではないかとさえ思えてくる。

2005年11月には小泉純一郎内閣が女性・女系天皇を容認する報告書をまとめ、2012年には野田佳彦内閣が「女性宮家創設」を含む論点整理を公表した。しかし、その後、残念ながらそれらの議論の進展はない。

「おとぎ話」に隠された深刻な問題

実は、日本の皇室のお手本にもなってきたイギリスでは、300年以上続いた男性優位の王位継承のルールが2013年に改正された。今の時代にそぐわないルールは変えるべきだという理由からだ。

それまでは王位継承者は、王の直系の子孫の最年長の男子と決められていて、男子がいない場合のみ最年長の女子が王位を継承できるとしていた。現在のエリザベス女王2世がこれにあたる。

直系の子孫がいない場合は最近親の傍系の男子の子孫が優先されていた。しかし、2013年王位継承法により、男女関係なく女性でも王位継承の上位につくことができるようになったのだ。たとえば、現在のウィリアム王子とキャサリン妃の第2子のシャーロット王女は弟のルイ王子よりも皇位継承順位が上になる。

インドのインディアン・エクスプレス紙は、日本の皇室について「歴史家や学者が皇室における女性のステータスや役割について真剣に考えるべき時がきているといっている。男系による皇位継承にこだわり続けていると、いずれ皇室は消滅してしまうからだ」と述べている。

眞子さまの結婚の話が今後どうなっていくかわからないが、間違いなくこの「おとぎ話」には日本の皇室が避けて通れない問題が残っている。海外メディアの率直な指摘を真摯に受け止め、今後どうしていくべきかの本格的な議論を早くスタートさせてほしいと、多くの人が思っているのではないだろうか。

大門 小百合(だいもん・さゆり)
ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員

上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。