11月30日、秋篠宮さまが記者会見で、長女眞子さまと小室圭さんの結婚を認めると述べて話題になりました。眞子さまの結婚は海外でも注目を集めていますが、元ジャパンタイムズ執行役員のジャーナリスト、大門小百合さんはこうした報道から、「日本の皇室が海外からどのようにとらえられているかがわかる」といいます――。
婚約内定の記者会見で見詰め合われる秋篠宮家の長女眞子さまと小室圭さん=2017年9月3日、東京都港区の赤坂東邸
写真=時事通信フォト
婚約内定の記者会見で見詰め合われる秋篠宮家の長女眞子さまと小室圭さん=2017年9月3日、東京都港区の赤坂東邸

イギリス王室の「おとぎ話」

ネットフリックスで人気のイギリスの王室をテーマにしたドラマ「ザ・クラウン」が、最近物議をかもしている。11月に公開されたこのドラマのシーズン4では、チャールズ皇太子と故ダイアナ妃の出会いと結婚、そして皇太子の不倫についても描かれていて、かなり辛辣な内容だ。日本でこのような皇室をテーマにしたドラマを作ることなどありえないと思っていたところ、イギリスの文化相が、このドラマはフィクションであると注意書きを付けるようにネットフリックス側に求めたと報じられた。

シーズン4のチャールズ皇太子とダイアナ妃が結婚するエピソードのタイトルは「おとぎ話」。このおとぎ話、現実には2人は離婚し、その後、ダイアナ妃が交通事故で亡くなってしまうため、「お姫様は王子様といつまでも幸せにくらしましたとさ」というふうにはならないが、さて、日本の皇室のおとぎ話の方はどうだろうか。

海外メディアで注目を集める眞子さまの結婚

先日、「日本のプリンセスにとって、おとぎ話のような結婚は遠い先のこと(For Japanese Princess, Fairy-Tale Wedding May Be Distant Prospect)」という見出しの記事をニューヨークタイムズで見つけた。秋篠宮さまが眞子さまと小室圭さんの結婚についてご自身の誕生日の会見で「認める」という発言をしたことについての記事だが、2人の今までの経緯を紹介するとともに、1月に王室を離れると宣言し、同じく自国の王室と不協和音をだしているイギリスのハリー王子とメーガン妃についても触れていた。

2018年5月、結婚式のあと馬車でパレードするハリー王子とメーガン妃
写真=iStock.com/AdrianHancu
2018年5月、結婚式のあと馬車でパレードするハリー王子とメーガン妃

なぜ日本のプリンセス眞子の結婚は前に進んでいないのか?(Why has wedding of Japan’s Princess Mako still not gone ahead?)」という記事を掲載したのはイギリスのガーディアン紙。記事は、「2人は大学で出会い、大陸と海を隔て離れ離れになっているにもかかわらず、2人の心の絆は明らかに今まで以上に強まっている。しかし、彼らのウェディングベルの音は3年前よりもさらに遠のいている」といった書き出しで始まる。こんなふうに眞子さまと小室さんの結婚をめぐる話は、海外からも注目されているのだ。

王室に挑戦したダイアナ妃

香港のサウスチャイナ・モーニングポストにいたっては、「反旗をひるがえす王室メンバーたち:ダイアナから日本のプリンセス眞子まで。王室のしきたりを破って自分たちのルールで生きる5人のお姫様たち(Rebel royals: From Diana to Japan’s Princess Mako, 5 princesses who broke royal protocol and lived by their own rules)」というなんとも挑発的な見出しの記事とともに眞子様の写真がダイアナ妃、そしてナイジェリアのケイシャ妃とともに大きく掲載されていた。

ダイアナ妃はイギリス王室の暗黙のルールである「不満を言わない、説明しない」ということを守らず、メディアに彼女の出産後の鬱と過食症について語り、王室に挑戦した女性として取り上げられていた。眞子さまの結婚については、「プリンセス眞子の一般人との結婚は婚約発表後2年以上たってもまだ波紋を広げている」と記事はつづっている。最近の報道だけをとれば、眞子さまは海外でかなり有名な日本のプリンセスになっているようだ。

「負け犬の最後の大物」だった紀宮さま

自国に王室があるせいか特にイギリスのメディアは、日本の皇室についての関心が高い。そんな海外からの皇室報道は、日本が海外からどう見られているかのヒントになるだけでなく、日本の現状、そして未来を、時には日本のメディアより、はっきり表現していると感じることがある。

たとえば、2006年に紀宮さま(現在の黒田清子さん)がご結婚された時、海外メディアが強調したのは36歳のプリンセスの結婚が時の日本社会をいかに反映しているかということだった。

もっとも印象的だった論調は、「紀宮さまは結婚によって負け犬ではなくなる(A 'loser dog' no more.)」というもの。当時、ベストセラーだった酒井順子氏の著書「負け犬の遠吠え」の中で、独身だった紀宮さまが「負け犬の最後の大物だ」と書かれていたことにひっかけ、いくつかのメディアがこんな表現で報道していたのを覚えている。それらの記事によると、ひと昔前はこの年齢で結婚ということは考えられなかった。だからこの結婚で、日本の30代の多くの独身女性たちは、「結婚するのには、まだ遅くない」と勇気づけられたのだと。

あれから10年以上たった今、30代で結婚する女性は多い。40代での結婚ですらもはやそう珍しいものではなくなった。

日本とまったく異なる海外メディアの視点

では、今回の報道ではどうだろう?

日本の報道を見ていると、二人のご結婚を認め祝福してあげたいという声がある一方、まずは小室さんが母親の金銭問題を含め目に見える形で対応する必要があるという主張の記事が多かった。また、小室さんはまだ学生の身、結婚については小室さんが弁護士の試験を終え、就職してから決めるべきだという意見も見られた。

一方、海外の報道では、眞子さまのご結婚について認めるべき、認める必要はないなどとの論調を述べる記事はほとんどなかった代わりに、日本の皇室の将来を危ぶむ記事が多かったのが印象的だった。

「今回の騒動は、日本の皇室は世界で最も脆弱な王室であるということを思い出させるものだ」と書いたのは前述のニューヨークタイムズだ。

縮小(shrink)する日本の皇室

この記事だけでなく、眞子さまのご結婚をめぐる話を報道した海外のメディアのほとんどが、日本の皇室が年月とともに縮小(shrink)している点に言及していた。

イギリスのBBC放送も、第2次世界大戦前の日本の皇室では遠い従妹、華族の息子や娘たちとの結婚が多かったが、戦後の皇籍離脱により「今日では、日本の若い姫たちは、一般人の男性と結婚する以外の選択肢はない」と伝えた

ちなみに官邸が以前発表した資料によると、皇籍離脱が行われた前日の1947年10月13日の皇室会議で、片山哲議長(内閣総理大臣)は「皇位継承の御資格者としましては、現在、今上陛下に二親王、皇弟として三親王、皇甥として一親王がおわしますので、皇位継承の点で不安が存しないと信ずる次第であります」と説明している。

それから73年たった現在、40歳以下の皇室のメンバーは7人のみ。そのうち悠仁さまを除いてはすべて女性だ。

報道によると政府は、結婚後の皇族女子を特別職の国家公務員と位置づけ、「皇女」という新たな呼称を贈り皇室活動を継続してもらう制度を創設する検討に入ったといわれている。眞子さまがもし結婚された場合にはこれに当てはまる。

しかし、皇女といっても国家公務員ということになれば女性皇族として皇室に残ることにはならない。女性天皇や女系天皇の容認にもつながらない制度であり、もし皇女制度を導入することで皇位継承策の議論が止まってしまうような事態となれば、皇室が直面する問題を先延ばしにするだけではないかとさえ思えてくる。

2005年11月には小泉純一郎内閣が女性・女系天皇を容認する報告書をまとめ、2012年には野田佳彦内閣が「女性宮家創設」を含む論点整理を公表した。しかし、その後、残念ながらそれらの議論の進展はない。

「おとぎ話」に隠された深刻な問題

実は、日本の皇室のお手本にもなってきたイギリスでは、300年以上続いた男性優位の王位継承のルールが2013年に改正された。今の時代にそぐわないルールは変えるべきだという理由からだ。

それまでは王位継承者は、王の直系の子孫の最年長の男子と決められていて、男子がいない場合のみ最年長の女子が王位を継承できるとしていた。現在のエリザベス女王2世がこれにあたる。

直系の子孫がいない場合は最近親の傍系の男子の子孫が優先されていた。しかし、2013年王位継承法により、男女関係なく女性でも王位継承の上位につくことができるようになったのだ。たとえば、現在のウィリアム王子とキャサリン妃の第2子のシャーロット王女は弟のルイ王子よりも皇位継承順位が上になる。

インドのインディアン・エクスプレス紙は、日本の皇室について「歴史家や学者が皇室における女性のステータスや役割について真剣に考えるべき時がきているといっている。男系による皇位継承にこだわり続けていると、いずれ皇室は消滅してしまうからだ」と述べている。

眞子さまの結婚の話が今後どうなっていくかわからないが、間違いなくこの「おとぎ話」には日本の皇室が避けて通れない問題が残っている。海外メディアの率直な指摘を真摯に受け止め、今後どうしていくべきかの本格的な議論を早くスタートさせてほしいと、多くの人が思っているのではないだろうか。