目に見えない「不妊退職」の損失2083億円
経済的負担もさることながら、仕事との両立の難しさから退職という決断をする女性が少なくないことも不妊治療の大きな問題です。2018年に厚生労働省が行った調査によると、仕事をしながら不妊治療を経験した女性のうち、仕事との両立が困難なことから退職をした人は23%。不妊治療をしている女性の4〜5人に1人が退職を余儀なくされている、という衝撃的な実態が明らかになりました。NPO法人Fineの試算では、不妊退職の社会的・経済的損失は約1345億円、新たな人材を獲得するための採用コスト等を含めれば約2083億円に上ります。
こうした実態を企業の経営層にお話すると、皆さま口をそろえて「確かに大変な問題ですね。まあ、ウチには(不妊治療をしている人は)いないんだけどね」とおっしゃる。けれども、5組に1組の夫婦が不妊治療を受けていると言われる時代です。いないのではなく、言えないだけ。知らない間に、優秀な人材が辞めているかもしれない、ということにもっと危機意識を持っていただきたい、と強く感じます。
なぜ辞めていくのか
なぜ、辞めてしまう女性が多いのか。
第一の理由として、不妊治療の特性上、通院のスケジュールを立てづらいことが挙げられます。不妊治療は月経周期をベースに、卵子の成長をこまやかにチェックしながら進められます。卵子の育ち具合は毎月異なり、突発的に診察が必要となることも珍しくありません。
さらに、スケジュール調整の苦労に、取引先や同僚に迷惑をかける心苦しさ、そしていつまで治療が続くかわからない不安。そうしたものに耐えかねて、退職するケースがほとんどです。
不妊治療を受けたからといって、妊娠が約束されているわけではありませんし、そもそも不妊治療をしていること自体を周囲に話したくない、知られたくないという方が大半です。周囲に事情を知らせずに、何とか仕事のやりくりをして治療を受けていますが、通院期間が長引くほど両立が困難になってきてしまいます。その結果、仕事に真摯に取り組んできた人ほど「もう辞めるしかない」と追い詰められてしまうのです。
また、勇気を出して不妊治療をしていることを相談したところ、退職勧告を受けたり、不本意な異動を命じられたという人もいます。
不妊退職は、どの企業にとっても決してひとごとではない問題です。