睡眠不足の人がいると組織の生産性にも影響が
──ビジネスパーソンの睡眠に関して、どんな悩みをよく聞きますか。
【菊地】具体的な悩みとして、「中途覚醒」を訴える方が非常に多いですね。途中で起きてもすぐまた眠りにつければさほど問題はありませんが、再入眠ができず、結果的に睡眠時間が不足して、疲れが取れないというのもよくあるケース。「睡眠時間が6時間を切る状態が長く続くと、日中のパフォーマンスは本来の4割程度しか発揮されない」という研究結果もありますから深刻です。
また最近の研究では、睡眠不足の人はネガティブな思考に陥りやすいことがわかっています。例えばチームで議論をしていても、“できない理由”を探して意見を言う。そうして、個人としてだけでなく、組織の生産性も低下させてしまいます。
──経営的に大きな損失です。
【菊地】企業が生産性を10%、20%高めるのは大変ですが、睡眠の課題が何十%もそれを引き下げる可能性は十分にあります。加えて問題なのは、もっと睡眠を改善できることを知らずに、加齢によるものだから仕方ないとあきらめていること。これだと改善の動きにつながりません。
確かに、加齢による睡眠の質の低下はある程度避けられないでしょう。しかし一方で、睡眠の質はテクニックでずいぶん高められる。アルコールやカフェインの取り方に気を付けるだけで劇的に改善する場合もあります。企業の経営者や幹部の方には、「仕方ない」と考えず、自身の、また部下の睡眠状態が業務やコミュニケーションにいかに大きな影響を与えているか。気に留めていただきたいと思います。
睡眠の個人データをもとにエアコンや照明を自動制御
──どのような対策から始めるのがいいでしょうか。
【菊地】まずは自身の眠りの深さや寝付きまでの時間など睡眠状態をできるだけ正確につかむこと。私たちが開発した「快眠環境サポートサービス」でも、その点に徹底的にこだわりました。なぜなら睡眠に適した環境は人によって異なるから。パナソニックではモニター調査なども行い、睡眠と部屋の温度や明るさの関係を長く研究してきましたが、やはり個人差はあり、良い睡眠に導く答えは一つではないことがわかっています。つまり、睡眠関連のサービスでは“パーソナライズ”が重要なキーワードなのです。
そこで今回のサービスでは、一般医療機器である西川のセンサー搭載マットレスを活用。呼吸などからくる身体の微細な動きを1秒ごとにとらえ、睡眠状態の個人データを計測します。
──計測した個人データをもとに、家電の制御を行うわけですね。
【菊地】はい。これまでも睡眠状態を可視化するツールは多くありましたが、大事なのはそれをどう生かしていくか。家電を扱う当社の強みを生かしたエアコンや照明の自動制御は今回のサービスの大きな特徴です。
具体的には、例えば入眠したタイミングや睡眠状態にあわせて、エアコンの温度、さらに風向や風量まで調整します。またLEDシーリングライトは、設定した起床時間に合わせて、起床時間の15分前から徐々に明るくし、すっきりした目覚めをサポートします。一口に「徐々に明るく」といっても、それが明け方の睡眠を妨げてはいけないので、きめ細かいコントロールが求められる。ここで、精度の高い個人データが力を発揮します。
──そのほか、どんなサービス内容がありますか。
【菊地】パナソニックが提供するスマホの専用アプリ「Your Sleep」を通じて、睡眠状態を睡眠スコアとして情報提供します。睡眠スコアは、睡眠時間、睡眠効率、寝付きまでの時間、中途覚醒回数、目覚めの状態、深い睡眠を評価したもので、日次、週次、月次で確認が可能。睡眠状態というのは、継続的に把握することがとても重要なんです。例えば、月末忙しくなると決まって睡眠の質が低下してしまうことがわかれば、対策が取りやすいでしょう。「Your Sleep」では、睡眠の結果に基づいて一人一人にあったアドバイスも提供しています。
豊かな人生のために優先順位の再検討を
──「快眠環境サポートサービス」をどのような思いで開発したのか。あらためて聞かせてください。
【菊地】今回のサービスのキャッチフレーズは「人生の2/3を輝かせるための1/3。」。まさにこの言葉のとおり、私たちは、睡眠は豊かな人生を送るための手段だと考えています。その手段の質をさまざまな技術で高めようというのが今回のサービスです。
自身の眠りに漠然と不満や悩みを持ちながらも、日々の忙しさの中で、その課題解決の優先順位が低くなっている方が多いかもしれません。しかしビジネスパーソンにヒアリングをしていると、「睡眠が改善し、前向きな気持ちになったことで、仕事やプライベートの多くの問題が解決した」という人は少なくありませんので、快適な睡眠環境づくりに貢献していきたいと思います。睡眠への投資は、将来の自分への投資です。私たちとしては、よりよい眠りを決してあきらめないで済むためのお手伝いをしていきたいと思っています。
※対応のパナソニックの家電が必要です。対応機種、無線LAN搭載のエアコン:2018年WX/Xシリーズ 2019年WX/X/AX/EXシリーズ 2020年X/AX/EX/GX/J/UX/TXシリーズ(2020年2月)、照明器具:LINK STYLE LEDシリーズのLEDシーリングライト。