マーシュ ジャパン × ボッシュ
従業員満足度の追求
一つの答えがGLTD制度
【金子】私どもは、もともと日系企業でしたが、1997年にドイツの世界的な自動車部品のサプライヤー、ボッシュが筆頭株主となり、現在は100%子会社となっています。
創業者であるロバート・ボッシュは会社経営にあたり、従業員が健康で働けることが会社の発展のために極めて重要と考えていました。1900年代初頭には、当時まだ珍しい年次有給休暇制度を導入し、いわゆる半ドン、土曜日の半日勤務も他社に先駆けたことも聞いています。この創業者の想いを企業理念として、福利厚生には定評のある会社ではないかと考えています。
最近では、「働き方改革」「健康経営」「ワーク・ライフ・バランス」「ダイバーシティ」など、多様な働き方を許容することが企業に求められています。私どもは人材の採用、そして定着を何より重要と考え、より福利厚生を充実させ、従業員の満足度を高めたいと考えていました。
【久保田】一般職の年次有給休暇取得率が100%ということも伺っており、とくに何かを改善しなければということではありませんでした。
今回、GLTD制度を提案したのは、ボッシュ様と私どもの姉妹会社であるマーサー ジャパン(人事・組織のグローバル・コンサルティング・ファーム)がすでにお取引させていただいており、その縁で金子さんを訪ねたのがきっかけでした。
【金子】久保田さんから、新しい休業所得補償という制度が広まりつつあるという話を聞き、これはいい制度ではないかということで、検討がスタートしたのです。
【久保田】GLTD制度は、すでに欧米では多くの企業で採用されている非常にポピュラーな福利厚生保険です。
日本では1994年7月に「団体長期障害所得補償保険」というライセンス名で販売が認可され、当初の主な顧客は外資系企業でした。当時の日本企業では、病気やけがで休んでいる人に、なぜ会社は給与を払わなければならないのかという空気でした。
それが1990年代後半から、日本の上場企業でも導入され始めるのです。
金子さんが指摘された、今後、求められる「働き方改革」や「健康経営」「ワーク・ライフ・バランス」「ダイバーシティ」といったキーワードも浸透してきました。そういう風向きの中、近年、急速にこのGLTD制度を導入する企業が増えています。
(※)GLTD(Group Long Term Disability)とは、病気やけがで働けなくなったときに経済的に支援し、社会復帰を後押しする制度。
GLTD制度導入の理由
時代に沿った共済会の形へ
【金子】通常、新たな制度を導入するには、新たなコストが生じます。幸い弊社には、従業員が全員加入する共済会制度がありました。
従来のシステムでは一定期間の傷病手当のほか、不幸にして亡くなられた方への給付金、病気で退職された方への一時金という形の補償がありました。しかし、傷病が癒えないまま、一定期間を超えて休むと収入は減少、やがては無収入になってしまいます。
本当は休んだほうがいいが、無理してでも働かざるを得ない、そんな従業員のために抜本的な対策を打ちたい。そこで考えたのが、今ある共済会の形を少し変えてGLTD制度を導入することでした。
求められたのは、共済会の財政に大幅な影響を及ぼさないように、健全に運営できるコストの負担と給付のバランスの見極めです。そのためにシミュレーションを行い、制度を構築する必要があったのです。
【久保田】GLTD制度を活用した新たな休業補償制度をご提案しました。従業員の皆さまにこの制度の変更を理解していただくことが重要です。就業規則に書かれているだけでなく、この制度を通して、従業員の方が安心して働ける職場環境を実感していただきたいという想いがあります。
労働組合、従業員に全国で説明、初年度加入率40%!
【金子】その結果、財政的なメドもつき、会社と労働組合に事前説明。制度変更については、従業員がオプションを選択できることから、ポジティブな反応をいただくことができました。久保田さんにも参加していただき、さまざまな疑問にお答えいただけたのもよかったようです。
とくに力を入れたのは、従業員への説明会です。ボッシュは全国に拠点があるので、説明会の開催は54回に及びました。そこでも久保田さんをはじめ、マーシュ ジャパンのスタッフのサポートが受けられました。
新しい制度で、自分がどれだけの補償が受けられるのか、既往症があるけど大丈夫だろうか、パンフレットだけではわからないから、説明を聞いて納得した上でという従業員の方々が多かったようです。結果、2000人以上が参加されました。
【久保田】GLTD制度は、会社が補償を提供する部分と従業員個人が買い増しできる2つの構成でできています。この制度についての従業員からの評価の良し悪しは任意加入部分の加入率に表れます。
ありがちなのは、会社がパッチワークのようにして導入してきた福利厚生がまったく従業員に認知されていなかったりするケースです。
従業員が認知していないために、個人で過剰に保険に加入していたり、本当に必要な保険に加入しておらず、家族が路頭に迷うというケースは存在します。今回のボッシュ様のGLTD制度もそのようなことが起こらないように、金子さんと二人三脚で制度をつくってきました。
【金子】当初、オプションを選択し、加入される方は漠然と、30%くらいを想定していました。それが初年度で40%。従業員数約5000人のうち、約2000人が加入。自分でお金を出して参加するということですから、それだけこのGLTD制度の価値を、認めていただいたのだと感じています。
【久保田】そうした中、初年度で40%の方に賛同していただけたのは、大きな評価だと受けとめています。
病気、けがで働けない方が毎年ゼロであることが一番重要ですが、いつ誰が、病気やけがで働けなくなり、病気と闘うことは誰にでも起こり得ます。この会社で働いていて、本当に助かったと言われる会社のほうがいいと思いませんか。
昔、あるお客様から「久保田さんは、人を支える仕事をしていることを忘れないでほしい」と激励の言葉をいただいたことがあります。
それは、ある従業員の方ががんに罹患され、退職後もこのGLTD制度があったからこそ住宅ローンも完済でき、今は、ご夫婦で楽しく暮らしているというお話を伺ったときにいただいた言葉でした。
この仕事の大切さを改めて教えられた出来事で、それ以来、15年以上、この仕事に取り組んでいます。
マーシュを選択した理由
新しい福利厚生制度を創る
【金子】今回、マーシュ ジャパンはGLTD制度だけでなく、福利厚生に関わる保険制度全般に通じる専門性、また総合的な管理ができる点がよかったと思っています。
単に保険を選ぶのではなく、制度を構築する際に専門性に基づいて、保険会社を選定していただきました。コスト面でもフィットさせることができた点も、高く評価しています。GLTD制度の基本的な内容は各社似通ったものなので、どうしてもコストの点がキーとなりました。
【久保田】私たちのお客様は、日系企業様に加え、グローバルに展開する企業様が多いことも事実です。海外駐在員の多いエリアでは、時には現地に赴き、ご説明させていただくケースもあります。
【金子】今回のGLTD制度導入からマーシュとのお付き合いが始まりましたが、今後は現在の40%から、さらに参加率を高めていきたい。
またGLTD制度でも介護をカバーするオプションがあると伺い、従業員が抱える介護問題も会社として支援できる対策がないか、考えていきたいと思います。
介護によって離職しなければならないというケースでも、所得の補償や復帰できる仕組みを考えるなど、個人の事情と会社の事情をすり合わせて、フルタイムではなくて短時間の契約という制度もあっていいのではないかと。
【久保田】病気や介護が理由で思うように働くことができなくても、今までと変わらない生活を保てるのは、ご本人および家族に加え、その職場で働く人たちにも安心してその職場で挑戦し続けられるというポジティブなメッセージになります。
こうした会社の姿勢が、仕事と病気・治療の両立支援、つまり「健康経営」にも通じるはずです。
【金子】最近ではGLTD制度をきっかけに、従業員の満足度を見極めながら、人事や福利厚生の仕組みを随時変えていく必要性も感じています。多様な働き方を実践することが、ボッシュの魅力になるのではないかと。
【久保田】マーシュもお客様が目指す多様な働き方を受け入れる職場づくりのお手伝いができればと考えています。
多様性という観点では、私たちは、今後は国内でのさらなるGLTDの普及に加え、この制度のアジア展開を計画しています。文化や国籍をはじめとした多様性をどのようにして大きな力に変えていくのか。その礎となるのはやはり安心して働くことのできる職場環境です。
福利厚生制度構築のパートナーとして、信頼いただける存在であり続けるために仕事を通して成長し続けたいと思います。