保険仲介とリスク・アドバイザリーに定評がある世界的なリーディングカンパニー、マーシュの日本法人・マーシュ ジャパン。保険のグローバル化や福利厚生の制度設計、さらにはM&Aの分野で最適なソリューションを提供してきた。その一端をクライアントの協力を得て、ご紹介する。
保険を見直し、リスクを可視化
リスクマネジメントの高度化へ

マーシュ ジャパン × LIXIL

ワールドワイドにビジネスを展開する企業では、リスクヘッジのために保険のグローバル化は最重要課題の一つ。マーシュ ジャパンを起用し、連携して保険のグローバルプログラムを推進。成果を評価する株式会社LIXIL(以下、リクシル)の企業保険管理室室長・牧野淳氏とマーシュ ジャパンの三浦慶介氏が一連の取り組みと今後の戦略を語った。

事業会社主導で最適な保険体系を模索

三浦慶介(みうら・けいすけ)
マーシュ ジャパン株式会社
バイス プレジデント
コーポレート リスク マネジメント
チーム リーダー
日系保険会社の企業営業部門を経て2012年に入社。以来、日系大手企業のリスクマネジメント支援と保険プログラムの構築に従事。2014年より日系企業営業チーム責任者。

【三浦】まず私から保険のグローバルプログラムのご説明と日本の現状をお話しします。

保険のグローバルプログラムとは、世界仕様の保険プログラムを一つのパッケージとして、グローバルに展開している日本企業に導入するものです。保険料抑制によるコスト削減、補償の最適化、世界のリスクの一元管理ができるというメリットがあります。

しかし、多くの日本企業では、日本は日本、海外は海外と現地でバラバラに、保険会社やブローカーと契約を交わしています。火災保険一つをとっても、何十本もの契約があり、補償内容もバラバラで、コントロールが利かずに、保険体系全体の最適化が図れていないのが実態です。

欧米企業では、リスクマネージャーという保険のプロが、経営者直轄で保険を含むリスク管理の責任者として、保険のプログラムを一括して構築します。それが日本とは異なるところで、日本では保険会社に任せっきり。保険会社に依存した状態が続いていたのです。

牧野 淳(まきの・あつし)
株式会社LIXIL
企業保険管理室
室長
日系保険会社でのロサンゼルス支店長等を経て2016年に入社。以来、グローバル展開するLIXILグループの保険管理体制を構築し、保険プログラムを統括。保険機能を通じてリスクの可視化、ガバナンス強化を実現する。

【牧野】私は2016年にリクシルに入社しました。当時、専門知識を擁して保険をグローバルに見られる人を探しているということで、保険会社勤務や海外マーケティング業務の経験がある私が採用されたという経緯があります。

すぐに任されたのはグローバルに保険プログラムをチェックするということでした。しかし、まず日本の中で保険が統合化されていない。実際、リクシルも三浦さんが指摘した多くの日本企業と変わらない状態でした。統合化されていなければ、グローバル化などできません。

しかし、これまでは保険会社依存型の体質だったのです。この状態から脱却するために、事業会社も保険会社と対等にやりとりしなければなりません。しかし、私一人だけではなかなか難しいものがありました。

【三浦】そこで必要となってくるのが、マーシュのような保険やリスクに関するアドバイザリーと呼ばれる存在です。

リクシル様の保険関連の膨大な内部情報について秘密保持契約を交わして、実態を把握したのちに競合他社とのコンペに臨みました。

【牧野】選定にあたっては、マーシュありきではなく、他社の提案と比較、精査しました。

国際的な対応力や人的リソースをベースに、どのようなサポートがいただけるかを検討いたしました。

マーシュ ジャパンを選択した理由とは

【三浦】リクシル様は国内外で買収を重ね、海外展開している会社です。欧米には買収した大きな事業会社があるので、日本で保険のパッケージを用意して、「はい」と導入するのは難しい。

また国内の保険が統合されていない課題があったので、まず日本の足元を固めようと。欧米などの海外で導入が進んでいる保険プログラムについては、日本の本社から頭ごなしにトップダウンで変えるのではなく、現地のいいものは「個別最適」であるとして、尊重しました。

そして日本から緩やかにコントロールし、全体で最適となるように、「個別最適」と「全体最適」を組み合わせて、ステップ・バイ・ステップで進めていくという提案をしました。(プログラム運営体制のコンセプト①「全体最適と個別最適のハイブリッド」の図参照)

ワンストップで、一つのパッケージに変えて、大きなコスト削減、均一というのはメリットもあり、聞こえもいい。しかし、現地のいいものを活かすということをコンセプトとして提案したのです。

【牧野】一番大事だと思ったのは、国内の保険をどうするか、その次のステップで海外とどうつなぐか、保険プログラムだけではなく、連携しながらやっていけるか、でした。

その点、マーシュ ジャパンの提案は、日本が司令塔になって動けるという点で、ほかの提案に比べて長けていました。日本が現地オフィスと緊密に連携し、リクシルの海外拠点のサポートにも深く関われる体制があると判断できたのです。

【三浦】マーシュ ジャパンでは、現地で日系企業を担当するデスクとして、JCS(Japan Client Services)を世界各地に設けています。つまり日本の責任者が司令塔となって、各地のJCSのメンバーや現地のスタッフと連携できる体制がすでにあります。これは大きな強みとなりました。

【牧野】グローバルに保険を管理する上で、いかに一体化して動いてくれるか。アジアや欧米の現地担当者を尊重し、緩やかなコントロールを理解する一方で、高い機動力があるという点を評価させていただきました。

担当者だけでなく、保険種目やその他のコンサルティングサービスなど各種専門領域でリクシルの担当者を設けてくれ、組織力に裏付けられた国内外の一体感、フットワークを高く評価し、起用を決めました。

マーシュ ジャパンを起用して得られた成果

【牧野】マーシュ ジャパンを起用し、バラバラだった保険を集約。補償とコストの両面が改善でき、マーシュ起用における日本の保険の見直しという第1フェーズは、想定通りの成果が得られました。

またマーシュのグローバルネットワークと人材スキル、経験、ノウハウといった豊富なリソースも活用でき、リスクマネジメントの向上につながったことも大きな成果だと考えます。

何よりもマーシュ ジャパンを起用することで、リクシルの組織に横串を通すことができたのではないかと思います。これまでリクシルだけではできなかったことに対してぴったり合う形でマーシュが入ってくれました。その意味で組織にとってマーシュの提案は合っていたといえます。

【三浦】第2フェーズでは、アジア、アフリカ、欧州、アメリカといった海外展開はトップダウンではなく、現地で対話を重ね、最善を見出すステップを重んじたため、長年運営している保険プログラムを変えることへの抵抗や競争原理が働かない保険マーケットの現状が浮き彫りになりました。

牧野さんと現地に赴き、リクシルの現地の方に丁寧なヒアリングを行い、交渉を重ねたことも。そこでは時に日本の保険会社のサポートを受けながら、保険の改善点を見出し、難局を乗り越えることができています。

現地で起きている課題に、日本からソリューションを提供することで、マーシュを通じて、世界各地のリクシル様がつながり始めていることを実感できるのは冥利に尽きますね。

2人の対談は阿吽の呼吸で進んだ。共に考えているのはリクシルにとって最適な、「リクシルベストのリスクマネジメント」に行きつくと声を揃える。

リクシルベストを求め、リスクマネジメントを高度化

【牧野】日本発のグローバルプログラムではなく、今では多くの海外拠点でマーシュを起用し、個別の保険プログラムを再構築しています。

そこでは現地のトラブルについて、イニシアチブを取って情報の詳細の調査や現地工場のリスクサーベイ、聞き取りを通じて日本に報告される体制ができています。おかげで私たちも情報をタイムリーに共有できています。

【三浦】各地でマーシュは最適なソリューション提供に努め、「個別最適(プロアクティブなサービス体制)」と「全体最適(緩やかな管理体制)」というハイブリッドでバランスの取れた体制ができつつあります。

マーシュ起用による保険の見直しで成果を出していますが、保険の体制構築がゴールではありません。目指しているのは、リクシル様に最適な「リクシルベスト」のガバナンス強化とリスクマネジメントの高度化です。

【牧野】日本企業におけるリスクマネジメントは、保険と一体化して運営されているわけではなく、形式的なガイドラインや仕組みに留まっている企業が少なくありません。

これまでお話ししてきた通り、リクシルも今回の保険見直しにあたって、マーシュ ジャパンを起用し、これによって世界各地でリクシルグループの全体のリスクが可視化されつつあります。

リスクをヘッジするには、どの程度保険をかけるべきか、それ以外の方法でもヘッジできるのか、マーシュのリソースを使ってリスクの定量評価やリスク軽減につながる具体的な取り組みを始めています。(プログラム運営体制のコンセプト②「リスクマネジメントの高度化」参照)

【三浦】今後も牧野さんとともに「リクシルベスト」を追求し、リスクマネジメントの高度化のためにサポートさせていただきます。