企業年金が増えても、厚生年金が減る

厚生年金も同じである。

年金保険料が減れば将来受け取る老齢年金はもちろん、障害を負ったときに支給される障害年金や、死亡後に子どもなどに支給される遺族年金の額も少なくなる。

そもそも厚生年金の保険料は労使折半で、納めるべき額の半分は雇用主が負担している。掛け金を出すことで給与が少なくなると、自身が支払う額だけでなく、企業が支払う額も減り、保険料の自己負担分が減る効果より、年金額への影響の方が大きいとも言える。

年収が一定の額を超えると(1000万円程度など)、厚生年金の保険料も頭打ちになり、将来受け取る額も上限に達する。そこまでいけば、選択制DCを利用しても厚生年金の受取額には影響がないが、多くの人にとっては、選択制DCはデメリットも多いのである。

「公的年金は減っても、企業年金が増えるのでいいのでは?」と思うかもしれないが、そうとは言えない。企業年金は掛け金と運用によって得られた原資を一定の期間で受け取っていくのに対し、公的年金の給付には税金も投入されるし、何と言っても「終身」という魅力がある。「長生きリスク」という言葉もあるように、長生きするほど、お金がかかり、生きている限り給付される公的年金は、力強い存在なのだ。

公的年金が減るようなことは避けた方がいい。公的年金を不安視している人はとくに、終身年金であることのメリットを理解してほしい。

勤務先から「選択制DCを導入する。加入するか」と問われても、安易に選択しないこと。年金を増やすなら、個人型確定拠出年金(iDeCo)を選択肢にしよう。

社会保険は、貧困に陥ったとき、困ったときに役立つものであり、国民が支え合うセーフティネットである。保険料が減ればセーフティネットが働かなくなる可能性があるし、個人にとっても、前述のように保障が小さくなって不利になり得る面が多い。

また選択制DCは一度選択すると、60歳までやめることができない(金額の変更は可能)。若いうちは、結婚、出産、転職、独立など、ライフスタイルや働き方が変わることも多く、お金についても柔軟性を持っておくのが望ましく、一度の決断が長い期間影響することは控えた方が無難とも言える。

写真=iStock.com

井戸 美枝(いど・みえ)
ファイナンシャル・プランナー(CFP認定者)

関西大学卒業。社会保険労務士。国民年金基金連合会理事。『大図解 届け出だけでもらえるお金』(プレジデント社)、『一般論はもういいので、私の老後のお金「答え」をください 増補改訂版』(日経BP)、『残念な介護 楽になる介護』(日経プレミアシリーズ)、『私がお金で困らないためには今から何をすればいいですか?』(日本実業出版社)など著書多数。