似て非なるマッチング拠出と選択制DC

確定拠出年金では、原則、事業主が掛け金を負担するが、年金額を増やすため、加入者(従業員)も掛け金が出せる「マッチング拠出」という仕組みを導入している企業もある。

マッチング拠出する場合、掛け金は給与から天引きされ、拠出した分(支払った分)は所得から控除され、所得税や住民税が安くなる。節税しながら年金づくりができるのがメリットだ。加入者が拠出できるのは事業主掛け金と同額まで(合計で5万5000円または2万7500円が上限)となっている。

これと似ているようで、全く違うのが、いわゆる「選択型DC・選択制DC」である(以下、選択制DC)。

選択制DCは、「そもそも確定拠出年金に加入するかどうかを本人が決め」、「掛け金は加入者が給与の中から拠出する」というもの。

事業主は、給与の一部を前払退職金として位置づけ、給与として受け取るか、企業型DCに拠出するかを従業員が選択する。従業員からみると、給与または賞与の内枠選択制で、感覚的には、給与の一部を貯めておくか、今もらうか、というイメージである。拠出できる上限は5万5000円(または2万7500円)で、加入者自身が額を決める。

マッチング拠出と選択制DC、どちらも同じようにみえるが、実は大きな違いがある。

マッチング拠出では、前述のとおり、拠出した分が所得から控除され、所得税や住民税が安くなるメリットがある。対して選択制DCでは、拠出した分が全額非課税になり、公的年金保険料や健康保険料といった社会保険料も安くなる。

税金や社会保険料が減るという点で、「選択制DCはかなりメリットが大きい」と思いがちだし、「勤務先に制度があるなら利用したい」と思う人もいるだろう。しかし、本当に得なのだろうか。

社会保険料が減るのは必ずしもいいことではない

結論から言うと、選択制DCは決してお得とは言えない。

なぜなら、支払う社会保険料が減れば、受けられる給付も減るからだ。

健康保険は医療費の窓口負担が原則3割で、医療サービスを受けられる。これは社会保険料の多寡によって変わることはない。しかし、「傷病手当金」や「出産手当金」は違う。

傷病手当金とは、病気やけがで連続して4日以上休業した場合、最長1年6カ月、月収(標準報酬月額)の3分の2が給付されるものである。月収30万円なら1カ月分として20万円が支給されるところ、5万円の掛け金を出して月収が減っていると、約16万7000円程度になってしまう。

産休を取得し、産休中の給料が減額になったり、ゼロになったりした場合には、健康保険から「出産手当金」が支給される。これも、給料(標準報酬月額)をベースに計算されるため、標準報酬月額が30万円なら1日約6700円が98日分支給されるが、5万円の掛け金を出すと、5600円の98日分となる。

収入に応じた保険料を払うことで、収入に応じた給付が受けられる、という仕組みになっている制度も多く、保険料が減ることは必ずしも得とは言えないのだ。