人事はマーケターの目を持て!

新入社員向けという意味では、「ウェルカムランチ」制度も重要な役割を果たしている。

「3カ月間、ランチの費用を会社が負担して無料になるというもの。ただし、先輩社員を連れて行くこと、そしてその先輩とのランチは初めてであることが条件です。つまり、フルに活用すればほぼ全社員とランチに行くことになるという仕掛けですね。当社の場合、社員によってはしばらくオフィスで会えないというケースもある。だから最初がすごく大切で、集中的に、密にリアルなコミュニケーションをするからこそ、その後、オンラインでもうまくコミュニケーションがとれるわけです。また毎月1回は半日を割いて全社会議を開いていますし、会社の考え方を深めるためのディスカッションも盛んに行われています」

松本氏は、今の時代の人材確保について、2つのポイントを押さえておくべきだと語る。

「1つ目のポイントは、企業側と人材側のパワーバランスが変わったという点。少し前までは会社が人を選ぶという形ですが、今は完全に逆転していて人が会社を選ぶ時代。若者は情報収集力に長けているので、さまざまな企業に関する口コミ評価などを通して自分なりの情報を持っています。そうなると会社側としては、『当社はどこの会社と比較されているのか?』『数ある会社の中からどうやって選んでもらうのか?』といったことに気づく必要があります」

すなわち、「人事はマーケターとしての目を持て」というわけだ。会社自体を商品と考え、どういう魅力づけをして、どういう色を加えていくか。その成果として消費者たる人材に選ばれることになる。

「2つ目のポイントは、『何を大切なものとしてこだわり、何を大らかにするか』といった、責任と自由の設定。つまり、全部働き手に合わせて、迎合すればそれでいいのかといえば、決してそうではありません。会社としての軸は必要です。当社の場合、『ここは非常に厳しく見るけど、ここはすごく自由だよ』ということが明確になっていて、評価は厳正。それに合意した人だけが集まってきてくれます。働く人一人ひとりに厳格なミッションがあるからこそ、労働条件は緩やかでも会社としての目標はブレない。それがもし、会社としての軸がなければ『テレワークや在宅勤務だと管理や評価ができない』などと、前時代的なマイナス思考に陥ってしまうでしょう」

少子高齢社会の中では若い働き手がどんどん減ってしまう。“若い”というだけでも貴重な存在となることを忘れてはならないだろう。LiBでは今春、初めての新卒採用者5名が入社する。一方で、経験豊富な年配者の力も重要。LiBでは、50歳代や60歳代の採用実績もあり、貴重な戦力として活躍している。

いずれにせよ、「○○制度」という細目を整えるだけでは、人材は集まって来ない。松本氏が言うところの“会社としての軸”をどこに置くかを明確にすることが何より重要といえそうだ。

(小澤啓司=文 写真提供=LiB)

松本洋介(まつもと・ようすけ)
株式会社LiB代表取締役CEO
1979年石川県に生まれ、埼玉県幸手市に移住。明治大学商学部卒業後、2003年株式会社リクルートに入社。タウンワーク、ホットペッパーで全国営業MVPを多数受賞したほか、新規事業開発室にて『eruca.(エルーカ)』創刊に携わる。07年4月「東証マザーズ上場実現」をミッションにトレンダーズ株式会社に最高執行責任者(COO)として入社、10年6月取締役就任。12年、営業担当取締役として上場を果たす。14年4月株式会社LiB設立、代表取締役に就任。働く女性のライフキャリア支援事業を運営する。