「卒業生」が続々と入社する!

クオリティの向上は、お客様に対するものだけではない。社内で女性が活躍するための職場環境改善においても女性ならではの力が発揮されてきた。そうした取り組みは、2001年東京都の男女労働者に優しい職場推進企業表彰制度で東京都産業労働局長賞の「働きやすい職場特別賞」、15年厚生労働省の均等・両立推進企業表彰で「東京労働局長奨励賞」として評価され、16年には「子育てサポート企業」として厚生労働大臣の認定を受け「くるみんマーク」を取得するに至っている。

「当社は男女かかわらず、社員からの意見を吸い上げることに注力してきました。そうした中で女性活躍に関するテーマはほぼ100%聞き入れて、制度化してきています。希望や要望がでたら、まず肯定しましょうというのが経営側の姿勢です。ですから、たとえば、育児のための短時間勤務は小学6年生まで可能ですし、子供の関係で急な外出が必要な場合でも、中学3年生までは1日につき4時間までの養育外出を取得できます。あらゆることを制度化していることが大きなポイント。それらは個人のわがままではなく、会社が決めたことであると、全社員に周知徹底しています。だから育児休業の取得率も高いのです」

このほか、育児を理由に退職した社員の再雇用を促進する制度もある。働きながら子を産み、育てやすい環境がここにはそろっているのだ。

「ですから、ここ数年は結婚や出産を理由に辞める女性インストラクターはほぼいません。会社としての本音を言えば、せっかく国家資格を取得したのだから、結婚や出産をしてもそこで辞めたりしないでほしいというもの。それを目に見える形とするには、女性自身から出てくる意見やアイデアが不可欠だったわけです」

現在、同社では男女かかわらず数多くの「◯◯◯委員会」が存在し、社員の経営参加を促している。たとえば「広報企画委員会」「マナー向上委員会」「営業推進委員会」「施設・グリーンキープ委員会」といった具合に。その中で女性活躍については2007年に「子育て環境向上プロジェクト」(現・女性活躍推進委員会)が立ち上がり、そこから様々な委員会が派生してきた。

「要するに企業の部・課といった組織の運営を、サークル活動のような委員会に落とし込んで、組織を所属部門を越えて横の線で結びながら、みんなの意見を聞くというスタイル。トップダウンになりがちな中小企業、しかもオーナー企業にあっては特殊かもしれませんが、そうした社員の意見を聞く形がコヤマドライビングスクールの伝統なのです。今の若い人たちは、大学での経験から自分の意見を表現することに長けています。だから、どんどん有望な意見が提案されるんです」

ところで、育児や介護のための休暇、時短勤務などが増えると、マンパワーの手当てが難しくなりはしまいか。

「それを前提に人を増やすしかありません。そもそも、普通の業界では労働力の稼働率は100%が望ましいとされますが、われわれの世界では必ずしもそれが当てはまらないのです。マンツーマンのサービスなので、インストラクターの数に余裕を持たせておかないと、お客様を受け入れるキャパシティが小さくなり事業が縮小してしまいかねないからです。事業を伸ばすには、人的に遊びの部分、余裕の部分を持つ必要があります」

そうした観点からも、同社の採用活動は順調に見える。

「いま1年間でだいたい3万人の卒業生を出していて、これは全国1位の数字です。これに対しインストラクターは約500人いますが、もう少し増やしたいところ。毎年40~50人は安定して採用したいですね。実際の新規採用者数は、2016年が42人、17年が56人、18年が56人、そのうち女性は各年ごとに13人、11人、22人。少なくとも女性インストラクター3割はキープしたいと考えています」

同社の求人に対する応募者の属性で最も多いのが、「コヤマドライビングスクールに通って自動車免許を取得した」という“卒業生”だという。

「多くは免許を取るために1カ月から2カ月はスクールに通います。休憩時間にも職員の顔を見たりしているので会社の雰囲気がだんだんとわかってくる。すると『インストラクターという仕事はおもしろそう』『会社の雰囲気がよさそう』という感覚が芽生えるようなんです。それに、インストラクターの仕事は、仕事をしている時間や内容がはっきり決まっているのでファジーな世界が全くない。きわめてクリーンな労働環境である点も魅力になっています」

さて、女性活躍に関して、コヤマドライビングスクールが抱える数少ない課題の1つといえば、「女性が管理職になりたがらないこと」くらいのようだ。

「これは小さな問題ではありません。やはり女性ならではの悩みを理解できる女性管理職が増えなければ、今後の女性活躍が次のステップへと進めません。女性管理職の仕事内容がわかるよう、社内報なども使って理解を求めていますが、乗り越えなければならない壁はいくつもありそうです」

(小澤啓司=文 写真提供=コヤマドライビングスクール)

福島 清次(ふくしま・せいじ)
コヤマドライビングスクール代表取締役社長
1947年埼玉県生まれ。66年4月富士銀行(現みずほ銀行)入行。南青山支店・赤羽支店・品川支店・江戸川橋支店・早稲田支店の5店舗支店長を経て、本店審議役を歴任。2000年2月コヤマドライビングスクール入社。取締役財務部長、専務取締役事業本部長及び二子玉川校・成城校校長を歴任し、18年1月にコヤマドライビングスクールの子会社である(株)プロスタッフ代表取締役社長に就任(現在)。18年6月より現職。