「就業規則」は毎年改定する!

能力主義、業績主義に続き、人事評価の3つ目にあるのが「理念主義」。

「これは企業理念の理解度と実践度を評価するもの。理念の体現度・働き方・全社結束・道具としての英語力の4つのカテゴリに分けられ、さらに職種別、幹部・一般別の評価項目を加えて合計30項目を300点満点の総合評価票を用いて運用しています」

こうした評価制度は、雇用が守られる一方で、社員間での大きな報酬格差を生む。

「上位層の社員の中には、業界他社との比較で、どこにも負けないくらいの給料を得ているケースもあり、下位層の社員と比べると倍の差がつくこともあります。それほど差がついても社員が『いい会社』だと思ってくれるのは、納得できる透明性のある仕組みをつくり、運用結果にも納得性があるからです」

一般的な中小企業なら、人材の少なさと、人材の手薄さはリスクとなりかねない。そこで日本レーザーでは、1人の社員が複数の業務をこなす「マルチタスク化」や、1つの業務を2人で担当する「ダブルアサイン化」によって対応している。

「それによって、特定の人しか対応できない属人的な仕事を減らすことができますし、結果として子育てと仕事の両立も実現できます。また、社員が急病で入院したときにも、取引先に迷惑をかけずにすみます」

結婚・妊娠・出産という人生の大きな転換期を迎えても、「辞めよう」と考える女性がほとんどいない。

「それは、在宅勤務や時短を組み合わせることにより、職場で活躍できることを実績で示している先輩女性社員が何人もいるからなんです。海外転勤をすることになった夫に付いて行かざるをえないけど、本当は退社したくないと悩んでいた女性には、海外での在宅勤務を認めたこともあります」

つまり社員が自分のライフスタイルに応じた雇用契約を選び、どんな雇用契約でもキャリアアップを目指せる制度を実現しているのだ。

「パート社員でも派遣社員でも、本人が希望して条件を満たせば正社員になることができます。そこから管理職になったケースだって複数例あるんです。パートではなくフルタイムで働きたいけど、TOEICで500点取るのは難しいという場合は、嘱託社員として働く道も用意しています。また、転勤は本人が望まないのであればさせませんし、原則として単身赴任とならないように配慮しています。つまり、働き方を自分で決めることができる、人生を自分で決めることができるんです。そのために就業規則は、毎年改定しています」

日本レーザーにいい人材が集まる背景には、積極的に情報発信している点があることも見逃せない。

「ハローワークで求人票を目にした人たちは、その後で必ず、当社のホームページにアクセスします。そこには、メディアの掲載実績などを紹介している『夢と志の経営』と題する私のブログも掲載しています。私の著書を読んでアクセスしてくる人もたくさんいます」

いまや企業のネームバリューだけでは人は集まらない。今後はますます、働きやすい会社かどうかが重要になると近藤氏は見ている。

「英語ができて技術的なバックグラウンドがある人材を採用したいとなると、最近はハローワークだけでなく、人材紹介会社に頼らざるをえない場合もあります。ところが、中小企業の場合は1人の応募者に対し6社が競合する状況とも言われています。でも当社の場合は、求人条件に合う応募が募集人数の100倍ほどあります。それは積極的な情報発信の成果だと感じています」

(小澤啓司=文 写真提供=日本レーザー)

近藤宣之(こんどう・のぶゆき)
日本レーザー代表取締役会長
1944年東京都生まれ。慶應義塾大学工学部卒業後、日本電子入社。28歳のとき労働組合執行委員長に推され11年間務める。取締役米国法人支配人、取締役国内営業担当などを歴任。94年、子会社の日本レーザー社長に就任。翌年には日本電子取締役を退任し、以降、日本レーザー社長に専念する。2007年日本電子より独立。18年会長就任。第1回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞の「中小企業庁長官賞」、東京商工会議所の第10回「勇気ある経営大賞」など受賞。ベストセラー『ありえないレベルで人を大切にしたら23年連続黒字になった仕組み』など著書多数。