どうすれば、いい人材を採用・育成・活用できるか。企業経営者にとって、永遠の課題だろう。社員数わずか40人の日本レーザーは、一貫して「ハローワーク」から人材を募り、生涯雇用と社員第一主義を揺るがない経営方針として掲げ、「25年連続黒字」という偉業を達成した。「社員を大切にする」中小企業経営とは何か。どん底からの大逆転を実現した現会長・近藤宣之氏がずばり明かす――。
日本レーザーには会長室がない。近藤会長は、社内各所に赴いては社員に話しかける。その際、社員は座ったまま、が慣習という。(写真提供=日本レーザー)

ハローワークを頼るしかなかった

新卒一括採用をせず、ハローワークを中心に採用活動を展開すると、日本のエリート層が続々と集まってきた――。そんな会社が東京・西早稲田にある。レーザー輸入専門商社の草分け的存在ともいえる日本レーザーだ。創業は1968年、年商39億円(2017年度実績)。

同社代表取締役会長の近藤宣之氏は、「ハローワークになんて……という声を聞くこともありますが、私の印象は全く異なります。優秀な人材がたくさんアクセスしてくれますから」と語る。

そもそもは「ハローワークを頼るしかなかった」のが実情だった。

「1994年、私は役員を務めていた親会社・日本電子から日本レーザーに派遣され、すぐに社長に就任しました。送り込まれた理由は、前年に債務超過となり『経営破綻状態に陥った子会社を再建してほしい』。ところが私が社長に就任すると、『次は自分が社長に』と考えていた役員たちが、有望な取引先とともに優秀な社員を引き抜く形で辞めていったのです。正社員が30人くらいしかいないような会社だったのに、私が社長に就任した前後だけで約50人が辞めて約50人を採用した。採用できてもすぐに辞めていくという状態。しかも、メインバンクからお金を借りられないどころか、破綻要請があったくらいですから、求人にお金はかけられません。ハローワーク頼りとなるのは自然の流れでした」

それが、今日現在はどうか。

「今も正社員は40人もいません。ただ、そのうちの20%近くは大学院出身者。しかも学歴でいちばん多いのは東大卒。大手電機メーカーに辞表を叩きつけて当社に来ている人間も少なくない。当社が重視しているTOEICも900点以上が約2割、その内訳は女性が圧倒的に多い。そして管理職の30%を女性が占めていて、そのほとんどがハローワークを通して採用に至りました。大学に求人は出していません。現在は8割が転職組です」

では、なぜハローワークに優秀な人材が集まるのだろうか。

「応募者の中でも目立つ存在だったのは、リストラに遭った中高年層、セクハラやマタハラで会社を辞めた女性、理不尽なパワハラを受けた人、国内学歴のない帰国子女や海外留学経験者、外国人などです。優秀ではあるのだけど、ほかの大企業では採用されにくい人たちや、新卒一括採用と時期が合わなかった人たち。そうした人たちを採用することで、当社は多様な人材で構成されるダイバーシティ型の企業になれたのです」

新卒一括採用をせず通年採用としているのも、ダイバーシティ経営につながるものだ。

「学歴別、年次別の賃金体系は、見た目は男女平等かもしれませんが、じつのところ身分差や不平等を生んでいます。雇用契約は一人ひとり違っていいはず。性別や国籍を問わず通年採用しているのはそのためです。業績や貢献度に応じて評価される仕組みがあることこそ平等につながります。一度社会に出て辛い思いをした人たちは、自分という個人を大切に評価してくれる企業があると知れば、心底コミットして働いてくれます。ダイバーシティ経営とは、人を大切にする経営にほかなりません」