時短、在宅、定年延長は当たり前

ハローワークに優秀な人材が集まってくるとして、数多ある企業の中から同社が選ばれるのは、なぜか。

「その理由は単純です。ダメな会社に人材は集まらない。いい会社にすると人材が集まる。当社が“いい会社”になったターニングポイントは、2007年にMEBO(Management and Employee Buyout)で独立してからだと考えています」

「25年連続黒字」を達成した日本レーザーだが、かつては経営危機に直面していた。それを見事再建したのが、現会長の近藤宣之氏だ。(写真提供=日本レーザー)

MEBOは、会社の経営陣と従業員が一体となって、親会社から株式などを買収して独立する形。社員が主役となる持ち株会社をつくったことで、社内には“当事者意識”が広く深く浸透していった。

「結果として、経営陣にも従業員にも甘えがなくなりました」

じつのところ、日本レーザーは近藤氏が社長に就任した1年目から黒字転換を果たしていた。それ以来、去年の12月まで25年連続黒字を記録している。それは社員一人ひとりが危機感を持ち、献身的に働いてきた成果でもあるのだ。最近10年で見れば、会社への不満が理由での離職率はほぼゼロ。外国人が「自国に帰らざるをえなくなった」という理由で辞めるケースくらいしかない。

「中には30歳くらいまでに3社経験し、その後当社に入り十数年以上働き続けて役員になった社員もいます。外国人の中には、日本に帰化してまで働き続けた社員だっているほどなのです」

そこまで社員がコミットできる人事戦略とはどのようなものなのだろうか。

「介護や育児、病気療養が必要な社員がいれば、本人の希望により短時間勤務や在宅勤務を臨機応変に取り入れました。07年には定年再雇用で65歳まで、12年には再再雇用で70歳まで働ける仕組みにしました。現在は、心身が健康で会社業績に貢献できる人なら、80歳まで働ける形にしようと検討しています」

一言でいえば「リストラのない経営」で、社員と役員が常に成長し続ける風土と仕組みを築いてきたわけだ。

「誤解を恐れずにいえば、『顧客第一主義』ではなく『社員第一主義』が当社の理念。顧客第一主義だと社員が犠牲を払わざるをえなくなる場面が必ず生じます。これがブラック企業を生む原因となります。そうではなく、あくまで社員が主役であることを社内ではメッセージとして送り続けています。経営方針として『生涯雇用』を打ち出し、会社から大切にされているという実感さえ持ってもらえれば、いかなるピンチに陥っても社員のモチベーションは下がりません。火事場のバカヂカラで乗り切れるのです」

同社では、社員教育の充実も目を見張るものがある。経営者大学など外部機関による充実した研修を受けられるほか、事務職も含め多くの社員が海外出張をすることでより大きく成長する機会を得られる。

人事評価においては、まずベースになるのは「能力主義」だ。

「そもそもTOEICで500点以上取れなければ正社員になれません。ハローワークの窓口の方もそこはよく理解してくれていて、当社に応募しようという希望者には、『英語力が必要ですよ』とアドバイス、それが結果的にある程度、最初の選別となっているようです。ほかにもPC・ITリテラシー、対人対応力の3つが基礎能力として評価されます。そして商品知識や経理実務、機器の修理など職種によって求められるのが実務能力です」

その上で、学歴・年齢・性別・国籍にかかわりなく、「目に見える成果」と「目に見えない貢献度」の両面から「業績主義」による評価が行われる。

「目に見える成果とは、営業の受注額や粗利額など数字に表れるもの。目に見えない貢献度とは、その数字を挙げるためにした努力や協力のことです。具体的には粗利額の3%を成果賞与として、営業員と技術員で配分しています。実際に受注して売り上げを計上するのは営業員ですが、技術員だって受注のためのデモンストレーションや技術説明を行ったり、さらには売り上げのために納入、アフターサービスを担当します。だから商談成立に関わった当事者同士で粗利を分け合おうというわけです。営業員2、技術員1で分け合うケースが多いのですが、半々のこともあります。分配でもめたことは一度もありません。技術員が受注に貢献するようになり、営業と技術の仲間意識が高まりました」