山陰の小京都、島根県津和野町で新会社を立ち上げた理由、そして成果は──。コンタクトセンターを運営するNex-Eを設立した小林達司社長に聞いた。
小林達司(こばやし・たつじ)
株式会社Nex-E
代表取締役社長

人材採用にあたっては地元の多様なサポートも

──津和野町への進出には、どのような経緯があったのでしょうか。

【小林】私は東京でIT関連のコンサルティングやシステム構築などの会社を経営しています。新たなビジネス創出を海外も視野に模索していましたが、創業メンバーの一人が島根県の出身者。「まず国内の地方でのビジネスはどうか?」という社内の話から始まり、津和野町長とお会いしたところ、熱心なお誘いをいただいたのです。町が取り組む地方創生推進事業の一つは「ITを生かした産業振興」。そこで2015年、津和野でコンタクトセンターを運営する新会社、Nex-Eを立ち上げました。

──事業内容を教えてください。

【小林】法人向けスマートフォンのテクニカルサポートデスクや通販のカスタマーヘルプデスクといったインバウンド業務のほか、顧客開拓のアウトバウンド業務も請け負っています。

オペレータには、コンタクトセンターのCRMシステムのほか、顧客開拓業務で使うマーケティングオートメーションツールなどに関連したITスキルも求められます。

──Nex-Eの設立以来、地元からの支援はいかがですか。

【小林】まず、オフィスは町の施設だった建物を借りられ、家賃は想定していた以上に抑えられています。光ファイバー回線も整えてもらいました。また、町と連携してIT研修を企画しています。

東京から来て新しく会社をつくった私たちは、求人するにしてもどんな会社なのか、たくさんの方々に知っていただく必要がありました。自社のホームページに紹介動画もアップしましたが、地元のケーブルテレビ局はNex-Eの紹介番組を流してくれたし、地元誌も取り上げてくれました。町内の高校では地元企業紹介や体験会の場をいただき、当社業務のシミュレーションを体験してもらっています。

あとは地元の企業が集まる行事などについて金融機関が教えてくれ、私たちもこまめに参加しました。都市部にも増して人と人とのつながりは、いろいろな面でとても大切です。地元の方を管理部門で採用し、その方の人脈にもおおいに助けられています。

Nex-Eでの業務の様子。社員は18歳から50歳代まで幅広く、それぞれのスキルに合わせた業務を担当する。

社員の定着率の高さが高度な案件受注にも貢献

──設立から3年半を経て、津和野町にどんな魅力を感じていますか。

【小林】第一に人材が魅力です。素直で勉強熱心な方が多い。それに伴う吸収力の高さを感じています。またオペレータは基本的に正社員で採用し、定着率がとても高いのも特徴です。お話ししたとおり、コンタクトセンター業務には多様なスキル、知識が必要ですが、定着率の高さは個々の人材のスキルアップにつながり、会社としてより高度な案件を受注できる体制が着実に整ってきました。これが他社との差別化に貢献しています。

ロケーションは、萩・石見空港へ車で約20分。東京との行き来も、思いのほか便利です。あとはオフィスと同じく住宅の家賃も安いし、やっぱり豊かな自然は大きな魅力でしょう。

──IT研修など、人材教育についてもお聞かせください。

【小林】Nex-EのEはEducationの頭文字でもあり、教育にも力を入れています。IT研修は、町のIT人材育成という方針にも沿ったもので、どなたでも受講できる場を役場とともに提供しています。ビジネス用ソフトの使い方やネットワーク、サーバ、クラウドなどの基本的な知識ほか、マーケティングやビジネスコミュニケーションの基礎も身に付ける内容です。受講後、当社や地元の企業で活躍していただいています。

当社の新入社員向け業務研修には外部講師を招いたり、OJTでチャットツールを活用し、効果・効率を高めています。そして現在、津和野採用の社員を1名、東京のグループ会社へ出向させています。より成長し、再び津和野に戻って活躍してもらう計画です。

Nex-Eが行っている津和野町でのIT研修。地元在住者は関心のある講座に無料で参加できる。

──地方進出を検討している企業にアドバイスをお願いします。

【小林】IT関連ならば場所を選ばない事業が多いので、他業種に比べ地方部のメリットを大きく生かせると思います。実際、当社のお客様のほとんどは東京の企業。Nex-Eによって、地方でも質の高いIT関連の事業が可能なことを証明できたと思っています。

また日本遺産にも指定された伝統文化や自然に恵まれた津和野の環境は、エンジニアなどブレーンワークの社員にとって、都会よりも働きやすいのではないでしょうか。地方創生の時代ですから、自社の利益追求だけでなく、地元社会に貢献する意識も必要だと思います。地元の発展が自社の成長を促してくれる、その好循環の可能性にも期待できると考えています。

IT関連企業と町がともに成長する場を目指す

津和野町長
下森博之

津和野町では、小規模のオフィス環境でインターネット等の通信インフラが構築できれば業務が可能なソフト系企業様の進出を支援しています。

津和野は藩政時代から「人材の育成」に力を注ぎ、森鴎外や西周が生まれ育った地です。今日も、町として多面的な取り組みで、IT人材の育成、IT拠点整備を進めています(下の図参照)。

津和野でも少子高齢化などに伴う課題は見られ、この町には日本が進む一歩先の姿があるともいえます。そうした社会課題を解決するビジネスモデルを目指す企業様には、ここを一つのモデル地区とし、全国展開への起点としていただければとも思います。

進出の前後とも、町の情報提供、現地案内、事業活動上の困りごとへの対応など、きめ細かく支援します。一定の要件のもと、初期投資額に対する税金の100%減免、物件の取得・改修費用の一部負担といった制度も用意しています。オフィス賃料は東京の半額から5分の1程度で、人件費も低く、津和野のメリットの一つは固定費削減です。まずは一度、津和野町へ足を運んでいただければと思います。