「費用体効果」を最大限に上げる!
そのこととも関連しますが、「IT投資をためらってはいけない」というのが私の信念です。最新の機種を最短のサイクルで買い換えれば、必ず投資を上回るリターンがあるのです。最新モデルならCPUやメモリの高性能化で旧機種よりも操作スピードが上がり、その分だけ入力に使う時間を短くできます。画像送信に5秒かかっていたところ、最新機種では2秒になったとしたら3秒の余裕ができますね。だからわが社の場合、iPadは2年ですべて買い換えます。
iPadの現在の機種の単価は9.8万円です。これは従業員一人当たり年間10万円としたわが社の研修費の枠内で収まる金額です。
さて、iPadの導入でどれだけ事務作業がスピードアップしたかを見ていきましょう。
かつて稟議書は、権限者の決済を受けるまで3日から最大5日もかかっていました。それがiPadの導入以来、年間約1万件の稟議書のうち55%が1日で決済され、98%が2日で決済されるようになりました。ある階層で決済が終わると、次の階層(工程)に「決済が終わりました」という旨のメールが届きます。これだけを見てもiPadの導入に大きな効果があったことがわかると思います。
iPad導入に合わせて稟議の仕組みも変えました。かつては最大7人が決済しなければ承認されない仕組みでしたが、スピードアップのために通常なら4段階、最大でも5段階で何でも承認されるようにしました。たとえば社長の私の決済が必要なのは100万円以上の支出とし、それ未満なら役員以下で決済します。
こうした制度改革を合わせて行ったことでiPadの使い勝手が格段によくなり、いまでは仕事でのパソコン利用比率は5%に激減、95%はiPad経由となったのです。
といっても、パソコンが不要だということではありません。長文を打ち込むときなど、パソコンのほうが圧倒的に便利な場面はまだまだあります。ですから従業員用のパソコンを減らすようなことはしていません。前述のとおり「IT投資をためらってはいけない」のです。
意思決定のスピードアップに役立っているのが、パソコンやタブレットなどのツールをバラバラに購入せず、すべて同じメーカー、同じ機種に統一していることです。これなら操作性は同じですから、全員が同じノウハウを持てばよく、互いに教え合うことも容易です。
同一機種にまとめる最大のメリットは、新機種導入の際の研修が簡単に済むということです。わが社では新機種導入時にシステム担当者が講習会を開いて設定の仕方などを習得させます。ここまでは他社と同じですが、その先が違います。システム担当が教えるのは初回の講習会だけで、その講習会で学んだ社員は必ず「次の人」に学んだ中身を教えなければならないというルールにしてあります。
初回講習会は部署や役職とは関係なく、挙手によって参加できます。定員は20人ほど。ときによってはシステム担当による講習会は3会場くらいに分けて行われることもありますが、いずれにせよ先に習った社員は誰か他の社員にその内容を教えなければならない。人間、教えることは学ぶことだと言いますから、習ったばかりのことを人に教えれば教える方にも知識が身に付きます。こうすると習得が速いし、身に付きやすい。いいことだらけなんですよ。
(面澤淳市=構成 iStock.com=写真)
株式会社武蔵野 代表取締役社長
1948年、山梨県生まれ。東京経済大学卒。76年、現在の武蔵野に入社。89年から現職。「大卒は2人だけ、それなりの人材しか集まらなかった落ちこぼれ集団」を16年連続増収の優良企業に育てる。日本で初めて「日本経営品質賞」を2回受賞(2000年度、10年度)。01年から同社の経営の仕組みを紹介する「経営サポート事業」を展開。700社以上の会員企業を指導する「中小企業のカリスマ」としても知られる。『残業ゼロがすべてを解決する』『利益を最大にする最強の経営計画』など著書多数。昨年暮れに出版された『お金は愛 人を育てるお金、ダメにするお金』はベストセラーに。