「IT化を進めるしか道はない」

給与体系の変更では、残業時間と勤務評価を連動させ、残業が少ない社員には賞与をたくさん出すようにしました。

「中小企業のカリスマ」といわれる武蔵野・小山昇社長。(的野弘路=撮影)

売り上げが同水準のまま残業を減らせたら、賞与を対前年比120%(パートは同200%)増とし、最終的には残業をしない人のほうが、残業をして月々の残業代を稼ぐ人よりも年収が多くなるという設計です。また、残業代の削減分を原資に基本給を引き上げました。

結果としてわが社は、月平均残業時間は17時間に減少し、部署によっては0時間も達成しました。そして若手社員は残業の少なさを「働きやすさ」と感じますから、この変化で新人の定着率もよくなりました。たとえば2018年度は26人の新入社員を迎え入れましたが、初年度に離職した者は一人もいません。

問題は、どうやって生産性を上げるのかということです。私は最初から、IT化を進めるしか道はないと思っていました。

しかし、中小企業がIT化で生産性を引き上げるなんて「とてもできない」と思い込んでいる社長は多いでしょう。でもそれは、社長自身が信念をもって「やる」と決めて前のめりにやればできるんです。

同じようなやり方で改善を重ねる、というやり方では変化に追いつきません。抜本的な発想の転換が必要なのです。IT化を進めて事務処理を圧倒的に便利にすることで、無駄な時間を撲滅していくしかないと私は考えていました。

そのためにまず、全社員向けにタブレットPCの「iPad」を大量に導入しました。それまでは営業職の社員などが報告や決済の入力作業を行うのはいったん帰社してパソコンの前に座ってから、というシステムでしたから、次工程の社員が処理にかかるのがどうしても遅くなってしまいました。iPadを導入すれば、出先から入力することもできるのでその遅れがほとんどなくなり、飛躍的に時間短縮ができると踏んだのです。

ところが、最初のiPad導入では私の判断ミスで「WiFiモデル」を選んでしまいました。詳しい方ならすぐわかると思いますが、社内をはじめ空港やカフェなど電波によるネット接続(WiFi)環境にあるときには社内システムにも接続できますが、それ以外では携帯電波をWiFiに変換するルーターがなければネットにつながらないというモデルです。

WiFiモデルは携帯電話の電波を使うLTEタイプに比べて安価だし、携帯電話の電波使用料がかからない。それで当初はWiFiモデルを250台も購入しました。しかし、それが失敗だった。ネットにつながりにくいので、当初想定したようには出先での利用が進まなかったのです。

問題点がわかったら、あとは修正するだけです。最初から完璧を目指そうとしても無理なんです。250台のiPadを導入から1年経たないうちにそっくりLTEタイプに買い換えました。もったいない、なんてことはありません。

簡単に計算してみましょう。

一人当たり65時間だった残業時間が17時間に減ったということは、48時間分の残業代を削減できたということです。削減できた分の約50時間に、時給1000円をかけると5万円になります。これは月ベースですから年間なら60万円。そのうち半分を賞与にまわすから正味は30万円になりますが、投資したiPad1台は10万円、プラスして電話代が月1万円で年間12万円。投資分は簡単に回収できるのです。

しかもその間、売上高は157%に増えていますから、投資の効果は十分以上です。

現在は社員250人に加えパート、アルバイト、内定者のすべてにiPadを1台ずつ、全部で670台支給し、私用でも使っていいことにしてあります。通信代を会社が負担する場合、「社用のみ」とする会社が多いようですが、わが社は違います。私用でも使えるようでなければ、社用での利用も進みませんから。