「社員の残業時間」を把握する!

間接的には、やはり長時間労働の抑制のための施策が挙げられます。

まずは、誰がどの程度働いているのか、労働時間を把握しなければなりません。これはPCのログや、ICカード、タイムカード等の客観的な方法をとるのが原則とされています。すべての労働者の労働時間を把握し、上限規制を遵守するよう目配りするのは非現実的ではないと思われるかもしれませんが、IT技術の発達した現在、労働時間の記録を一覧できるソフトウェアもあるようですし、人事労務業務を仕組化することなどでも達成できるようにも思います。要件を満たせば、中小企業における時間外労働時間の上限設定の実施に要した費用の一部を助成する助成金も活用できます(注2)ので、確認しておいた方がよいでしょう。

なお、今回労働安全衛生法関連省令も改正され、従前は対象外であった裁量労働制・管理監督者も含めて、労働時間を把握するよう義務づけられています(「労働安全衛生法による労働時間把握義務」)。

また、特定の社員に業務が集中するのを回避するため、その人しかできない属人化した業務を分析、定義し社内で共有できるようにしておく施策も考えられます。

そもそも人材不足である、ということもあるかもしれません。その場合アウトソーシング等の検討や、在職する従業員の離職を防ぐためのモチベ―ションアップのための施策、従業員個々に応じた働きやすい職場づくりを通じて就職の場としての訴求力を高める、等が考えられます。一朝一夕にはいかない課題ですが、企業が持続していくためには検討をして実現に近づけていく日々の継続的な努力が必要とされるでしょう。

「労働安全衛生法による労働時間把握義務」は2019年4月1日から、中小企業における「時間外労働の上限規制」は20年4月1日から、「月60時間超の時間外労働における特別割増の中小企業への適用」は23年4月1日から適用されることになっています。

前述の商工会議所の調査では、「時間外労働の上限規制」について「対応済・対応の目途が付いている」と回答した企業の割合は45.9%にとどまり、「法律の名称・内容を知っている」と回答した企業に限っても、 「時間外労働の上限規制」について「対応済・対応の目途が付いている」と回答した企業の割合は57.3%にとどまります。

このように過半数の企業はまだ対策を講じていない状況です。まずは、法律の内容を知って、できることから対策をはじめてみましょう。

(注1)厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン
(注2)厚生労働省「時間外労働等改善助成金(時間外労働上限設定コース)

中村穂積(なかむら・ほずみ)
弁護士
1996年東北大学卒業後、一般民事および企業法務を広く扱う事務所、知財を主に扱う事務所でパートナーとして勤務。2014年IT関連企業勤務を経て、16年法律事務所オーセンスに入所、現在に至る。東京弁護士会所属。