「家をつくりたい」と考えたとき、あなたはまず何をするだろうか。数多くの住宅づくりに携わってきた建築家の彦根 明さんに、本当に自分に合った家をつくるために大切なこと、考え方をうかがった。そこには普遍的な家づくりのノウハウがたっぷり詰まっている。
彦根 明さん
一級建築士、彦根建築設計事務所主宰。
1962年埼玉県生まれ、東京藝術大学建築学科卒業、同大学建築学科修士課程終了後、磯崎新アトリエに入所。1990年に独立して彦根建築設計事務所を設立。東海大学非常勤講師。日本建築士会連合会賞など受賞多数。著書に『最高に美しい住宅をつくる方法』『最高に美しい住宅をつくる方法2』(ともにエクスナレッジ)など。

好みの作品を見つけ会って話す

家を建てる際、自分好みの家をつくってくれるパートナーをどのように探せばよいのか。感性の合うところに依頼するまでが、家づくりで最も大事なところです。

そのためにはまず、情報を集めます。気になるハウスメーカーや建築家がいれば、これまでどんな家を建ててきたのかを調べ、その作品が紹介されている雑誌やインターネットの記事、テレビ番組などで、そのメーカーや建築家が話している内容や、大切にしていることを吟味すること。そうしたなかから、自分の考え方や感性に合う家づくりのパートナーを見つけることが大切です。

施主のなかには、インターネットなどで構造や設備、断熱性能などまで調べ、すごく専門的な知識を持っている方がいます。とはいえ、その知識を活用しようとしても自ずと限界があります。むしろ、そうしたことについても任せられるパートナーを見つけることのほうが大事です。

次に大切なのは、ハウスメーカーなら営業担当、注文住宅の場合は建築家と、実際に会って話をすること。実際の提案を受けてみると、なかなか思ったことが相手に伝わらないと感じることがあります。これは、一番重要なポイントについて、最初の段階での話し合いが十分でなかったため、それぞれが別のほうを向いていることに気づけなかったということが多いのです。

ハウスメーカーや建築家への面談申し込みは、遠慮せず直接打診してください。最初の話し合いや相談で料金が発生することは、まずありません。

設計提案をする前なら、施主が「ちょっと合わないな」と思ったら、そこでキッパリと断りを入れて問題ありません。むしろ、そうすべきです。迷いがあるなかで話を進めていってもうまくいきません。できるだけ早めに判断していただくことは、つくる側にとってもありがたいのです。

作品は多彩。数多くの作例をチェックする

私が経験した例を一つ紹介しましょう。その施主はアメリカのボストンに長く暮らしていたのですが、東京の下町に戻ってくることになりました。ボストンでは広々とした庭をつくって楽しんでいたけれども、建物が密集した下町では、囲われた環境で自分の生活をつくらなければならないと考えていたそうです。

そこでインターネットを検索したら、私が手がけた「閉じることで開く」をテーマにした住宅が目に留まったといいます。これは、外側から見えるところに窓をなくす一方、三つの中庭に対してはガラス張りにした家。それを見て、帰国したら私に相談しようと考えていたのです。

ところが巡り巡って、広大な公園に面した自然豊かな土地が手に入りました。即座に、私に頼んではダメだと決断をしました。これこそが、とても重要な判断なのです。

ところが、これには後日談があります。あらためて調べ直し「こういう家がいいな」と腑に落ちた家は、やはり私が手がけた「景色に溶け込む建物」でした。

住宅を取り巻く環境はそれぞれ全く違いますし、住まう人も違うという前提が、私の考えにはあります。つまり、人によって心地よいと感じる明るさ、空間は全く別であり、それに合わせるのが当然。だから、この例のように全く別のタイプの家を同時に手がけることにもつながるのです。

ですから気に入った家づくりのパートナーが見つかったら、その建築家がかかわった住宅をできるだけ多くチェックすることをおすすめします。

住む人全員の好みをこまかく伝える

家づくりを依頼するところが決まったら、具体的なプランづくりが始まります。私は施主が伝えたい内容を、伝えたい方法で教えてくだされば、それでいいと考えています。

私は、「自分の好きな雰囲気の写真を1枚でも、あるいは統一性がなくていいので何枚でも見せてください。建物に限らずどんなものでもかまいません」とお願いします。すると、生け花の本やテキスタイルのサンプル、時計の写真を持ってきた方もいます。建築家の側では、なぜ雰囲気が全く違うこれとこれが好きなのだろうと分析し、施主の好みのポイントを見つけます。その人がどういう点を気にして、何が好きなのかという全体像が見えてくるわけです。

自分のお気に入りのものを、つくる側に見てもらうことは、要望を伝える一つの有効な手段となります。施主が「家とは関係ないから」と考えていることも、じつは家づくりに結びついている可能性があるわけです。家は、そこに住まう人々そのものなのですから。

実施設計が固まった後では、修正を加えたいと思っても、取り返しがつかないことが少なくありません。好みについて伝えるのは、ご夫婦それぞれにお願いしています。二世帯住宅なら親世帯・子世帯双方の好みが知りたいので、打ち合わせの際も、全員に参加してほしいのです。

私の事務所では契約が決まると、A4用紙11枚もの「質問シート」をお渡ししています。その中には「洗面所の洗面ボウルは一つでいいですか?」など、聞かれなければ要望しないようなことも含まれています。大家族だと、じつはそこが悩みの種だったりするからです。そんなふうに要望として出てきそうなことを一通り質問のかたちで並べると、みなさんそれに対してはどんどん答えてくださいます。意思の疎通をはかる大切なツールとなっています。

次世代へつなぐ家へ
環境性能は重要

現実に目を向ければ、どうしても予算と希望のバランスをとる必要があります。例えば窓枠一つとっても、アルミサッシと木製サッシでは値段が数倍も違ってきます。そこで折り合いのつく提案ができるかどうかが腕の見せどころです。

ところが最終的に予算が足りないとなると、目に見えない断熱材などが犠牲になりやすいのも事実。でも、数年でその差額は元をとれますし、そもそも元をとれるかどうかの問題ではなく、次世代、次々世代まで見据えた家づくりを考えていただきたいところ。気象変動がますます激しくなる今の時代にあっては、住宅の環境性能や断熱は第一に重要視してほしいというのが建築家としての本音です。

(小澤啓司=文 大森大祐=撮影)