できないという業界の常識を疑う
──常に業界初のサービスを開発してきました。そこで培ってきた強みはどのようなものですか。
【松本】最大の強みは約180万人という顧客基盤です。1999年の創業当初、インターネット証券はまだ耳慣れない存在でした。それでもお客様にマネックスで口座を開設しようと思っていただけたのは、ひとえに我々自身がお客様の感覚を持っていたからです。私たちの提供してきた革新的な商品、サービスは、お客様の「こうなれば便利なのに。なんでできないの?」という素朴な疑問から生まれたもの。例えば、クレディセゾンさんと一緒にやった業界初となる証券口座に連携したキャッシュカード一体型クレジットカードの発行や、インターネットを通じたFX取引などは、やってみると想像を超える支持をいただきました。マネックスは、ソニーと私の出資によってできたウルトラベンチャーで、既存の証券会社が作ったという背景ではありません。だからこそ業界の常識に縛られず、「お客様にあったほうが良いサービス」を考えられたんです。
一方、僕の中には金融をやる以上は、金融の中心である米国の知識やサービスを取り込んでいくべきという思いがありました。米国でビジネスをし、その刺激を日本へフィードバックしていくことで、サービスはもっと良くなるはずです。今でこそ日本人の株取引は国内が中心となっていますが、その解消は時間の問題です。AI(人工知能)などの技術革新が進み、米国の企業情報を容易に入手できるようになれば、投資家の意識は変わっていくでしょう。すでに自動車や家電、洋服に食料品と、あらゆるものを世界中のブランドから選んでいるのですから。その意味で米国のインターネット証券会社TradeStationを買収できた意義は大きいですね。TradeStationは技術系の会社なので優秀なエンジニアが多数在籍しており、同社と共同開発した投資情報サービスMONEX INSIGHTは完成度が高く、いずれは米国市場もカバーしたバージョンを提供したいと思っています。
フィンテックは次の段階へ
人財バランスを変えていく
──「流れは乗るものではなく、つくるものだ」と宣言されています。第2の創業をどのように展開しますか。
【松本】我々はITと金融をクロスさせたフィンテックの第1世代。これまでは金融の人が商品、サービスを考え、技術者が実現してきました。しかしかつてない速度で技術が進化する今は、もっと「テック(技術)」が強くならなければなりません。テクノロジーを知っている人なら、「こんなおもしろいことができるよ」という金融の常識から飛躍した発想ができるかもしれない。そこから生まれた商品、サービスに金融のノウハウや法務の知識を掛け合わせていけば、ブロックチェーンなどの新しい技術を基盤とする市場創出に対して、いっそうのスピード感を持って挑戦していけるはずです。私たちは2017年までに証券基幹システムの内製化を完了しています。その過程で育ったエンジニアと共に、技術者をさらに増強していきます。加えて、経営陣のテクノロジーへの認識も新たにしていく必要もあるでしょう。人財の分布を変えて、経営の意識を一新する──これは新しい会社を作ることと同義です。
──お金の未来をどのようにデザインしていきたいと考えますか。
【松本】ブロックチェーンなどの新技術の活用は強く意識しています。昨年12月には米国子会社でビットコイン先物の取引を開始。今年1月にはAIを使いFXトレーディング技術の向上を支援するサービスを提供します。新技術に取り組んでいくのは、マーケットという存在が世界のあらゆるものを飲み込んで動いているからです。仮想通貨などの存在は、避けていてもやがて株価や為替、金利へ波及していきます。変化を排除するのではなく、丸ごと取り組まなければ市場は分からない。ただ同時に、テクノロジーだけで頭でっかちになってはなりません。お金の本質は交換価値です。お金そのものが喜びをもたらすのではなく、お金によって何を体験できるのか、どんな欲求を満たせるのかが重要なのです。お金の未来を思い描くときは、常にその出口を見据えています。すべてのサービスは、お客様の満足のために存在するのですから。